第86話 最終話 聖女の故郷はゴーストタウン

「なんて酷い事するのよ! サリアがおかしくなっちゃったじゃない!」


 メリルが私に怒ってきた。


「ごめんなさい。ちゃんと普通の状態にしてあげますからね。」


「早くしてよ! サリアが可哀想!」


 早く早くと焦って急かしてくるメリル。


 今度はメリルにトゲトゲ帽子を被せてあげると強く抵抗されたので、脱げないよう無理矢理抑えつけた。


「何するのっ! こんな物外してやる……って力つよっ!?」


「メリルの人を見下す癖を直して下さい。」


 トゲトゲ帽子が一瞬だけ光を放つと、彼女は急に脱力した。


「メリル、大丈夫ですか?」


「……大丈夫よ。」


 弱弱しい返事を返すメリル。その目には申し訳なさが溢れていた。


「今まで酷い事ばかりしてごめんなさい。」


 突然地面に膝をついて頭を下げる彼女。


 これは……。


「土下座ね。」


「土下座だな。」


 なんて見事な土下座なのかしら。


「というか、メリルって謝る作法なんて知ってたんですね……。」


「それくらいは知ってんだろ。」


「いえ、彼女は決して人に謝らない事で有名だったもので……。謝り方そのものを知らないんだと思ってました。」


「何て奴だ……。」


 ギャモーが呆れているわ。


 確かにそうよね。何があっても絶対謝らないって、逆に凄い事だわ。


「何にせよ、これで普通の状態にしてあげましたので、二人は今後悪い事をしないようにして下さいね。」


「……うん。」


「……わかったわ。」


 ちょっと、それなりに……いや、だいぶ元気が無いみたいだけど、これくらいは誤差の範囲よね?



 その後、他の村人の家を訪ねては悪い癖を直してあげた。


 中には激しく抵抗する人も居たので、『みんな友達』の魔法を使って説得したら泣きながら言う事を聞いてくれ、なんとか全員漏れる事なく私の親切を受け入れてもらう事が出来た。


 一人、また一人と……次々に元気を無くしていく村人達。


 彼らはきっと、意地の悪さこそが元気の源だったのでしょうね。悪い癖を魔道具で消し去った今、皆からは生への活力が……明日への希望が……すっかり失われてしまったよう。




「なぁ、大丈夫なのか?」


「何がですか?」


 私達は実家の屋根に上り、景色を眺めながら雑談している。


 以前には見られた有り余る程の活気の良さが、この村からは既に消え去ってしまっている。


「気付いてんだろ? 村中が静かになっちまって、これじゃまるでゴーストタウンだぞ。」


「そのうち元気になりますよ。ギャモーだって見ましたよね? 村人達の普段の様子を。」


「まぁ、元があれだけ元気……というかとんでもねぇ奴らばっかではあったが。」


「その通りです。元がアレなので、ゴーストタウンくらい静かな方が丁度良いですよ。だって……」


 村の中心にある井戸では必ず複数の人が集まり訳の分からない騒ぎを起こしていた。


 教会では毎日のように神なんかいらねぇ、髪をくれ! と神父様が叫んでいた。


 自警団の人は連日酒を飲んで、森から出て来た魔物に直接嘔吐しては魔物を撃退していた。


 若い人達は『なんかノリで』と言っては余所だったら捕まるような事を平気でしていたし、村の老人達は反射神経を鍛えると称し、若い異性の尻を撫でては殴られるのを避けるという意味不明な事を繰り返していた。


「信じらんねぇ……お前の村、フリーダム過ぎるだろ。」


「はい。そんな村人達からいじめられていた私は本当に苦労したんです。」


「アリエンナ……。」


「姿を見せる度に突っかかってこられ、それに対してブッ叩いては回復して分からせてあげる日々。本当にストレス解消に丁度い……じゃなくて、辛かったなぁ……。」


 私は村で過ごした日常を思い返しながら呟いた。


「今、何て言った?」


「いえ何も?」


 ギャモーの顔が引き攣っている。


「もしかしたら、ちょっと言い間違えがあったかもしれません。」


「……ストレス解消に良かったのか?」


「違います。ストレス解消なんてしていません。」


「なぁ、俺達……一応結婚したんだ。腹割って話してくれよ。」


 ギャモー……。


「本当ですって。私、聖女ですよ? そんな事する訳ないじゃないですか。」


 彼の視線にはちゃんと言え、という意思が込められていた。


 こうなったら観念するしかないか。


 話題を逸らそう。


「人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした……って知って、村人に対して優越感は抱きましたけどね。最初は聖女が何か知りませんでしたが。」


「あぁ……それはちょっと分かる気がするな。散々いじめられてたんだから見返してやれるって思ったんだな?」


「はい。治療をお願いされた際、誰がんな事すっかバーカ! って言ってやりましたけどね。」


「ははっ……お前らしいじゃねぇか。なんだかんだ言ってもよ、最後にはしっかり治療してやったんだろ?」


 笑いながら聞いてくるギャモーは私の善意を信じてくれているよう。


 確かに、それを言ったリズには最終的に治療を施してあげていた。


 リズが『性女』だという事をバラしてしまった詫びのつもりで行った治療なので、全く善意での治療ではなかったんだけど……。


 詳しい事は言わないでおこう。


 女の子は秘密の一つくらいあった方が魅力的だって聞いた気がするし。


「当然です。聖女なんですから治療してあげるに決まってますよ。」


「何で早口になったんだ?」


「い、いえ。偶然たまたまそうなっただけであって、全然全くちっとも他意はありませんよ?」


「お、おう……。」


 この話題は良くない。話を変えましょう。


「結婚したんだから新居を考えないといけませんね。」


「随分と唐突だな。しかしまぁ、俺の家は元々一人暮らしの為に買っちまったから手狭ではあるか……。ちなみにどこが良いんだ?」


「ギャモーとならどこでも大丈夫です。」





————————————————————


最後までお付き合いいただきありがとうございました。

これにて聖女の物語は完結となります。


アリエンナの活躍を楽しんで頂けたなら幸いです。

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人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ! 隣のカキ @dokan19

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