第4話 連れて帰っていいん?
駅までの道を、僕は黙々と歩く。もちまるも、ポケットの中で、じっとしている。
学校から駅までの道は、結構人通りも多い。
「帰るで」とは言ったものの、こいつをほんとに連れて帰っていいのだろうか。
家に着いたとたん豹変して、家族に害を加えるとか、そんなことにならないだろうか。
僕は、ちょっと不安で、迷っている。
う~ん。
やっぱりため息をついてしまう。
「どうしたん?」
後ろから追いついてきた誰かが、僕に言った。
振り向くと、クラスメートの光瀬だった。彼女は言う。
「今日は、部活はないん?」
「あ、ちょっと用事で、帰るねん。 光瀬は?」
「うち? うちらの部は、今日は、臨時でなし。ほんまは、クッキーでも焼こうか、て言うててんけど、ガス器具がなんか調子悪くて、点検するから部活なしになってん」
光瀬は、ホームメイキング部の部員だ。
部活で焼いたケーキやクッキーを、しょっちゅう、おすそ分けだといって、うちの部に届けてくれるので、ホームメイキング部と地学部は、なかよしだ。
地理歴史研究部、通称『地歴部』も含めて、ゆる~くて楽しい3大?文化部、と呼ばれている(そう呼んでいるのは、当該クラブのメンバーだけといううわさもある)けど、 3つとも、中棟の人の来ないフロアにあって、その実態は、部員以外の生徒には、あまり知られていない。
並んで歩いていると、光瀬が、ぽそっとつぶやくように言った。
「・・・なあ、伏見君」
「何?」
「実は、ちょっと相談したいことあるねんけど」
ポケットの中で、かすかに、もちまるがぽてっと動く。
「どんなこと?」
「ん~。いや、急ぎじゃないから、今でなくてもいいねんけど」
『急ぎじゃない』と言いながら、光瀬の顔は、少しくもっている。
今でなくてもいい、といいつつも、いつでもいい、というわけでもなさそうだ。
「ごめんな。今日は、ちょっと用事あるけど、できるだけ近いうちに、話聞こか?
・・・ただ、僕で、役に立つんかな?」
「たつたつ。 頼むわ。 できたら、明日とかではあかんかな?」
「ええよ。 じゃあ、明日、部活終わってからでもええかな?」
「うん。 ありがと」
「じゃあ。 また、明日」
光瀬は、手を振って、僕と反対側のホームへの階段を上がっていった。
その後姿を、見送っていると、ポケットの中の、もちまるが、ぽてぽてぽて、と
連続で跳ねた。何か言いたそうだ。
「あとで、聞くからな」
ポケットにささやく。
再び、ぽてぽてぽて、と跳ねている。
「今は、むりや。人が多すぎる。駅やで」
ポケットを上から、少し強めに押さえると、もちまるは、ぽてん、と動いてから止まった。
まだ4時前で、電車は比較的空いている。
あいている席に座って、文庫本を開く。
僕にとって、至福の時間だ。
ポケットの中が、何かほんの少しふてくされているような、ちょっと機嫌の悪い気配を漂わせているけれど。
(・・・ごめん。とりあえずは、がまんしてや)
電車が自宅の最寄り駅に着き、僕は、急いで家を目指して歩く。
帰ったら、まず自転車を修理にもっていかないといけない。
「なあ」 ポケットの中から少しくぐもった声がする。
「うん?」
「さっきの、あの子さ。 ・・・ちょっと心配やで」
「何が?」
「なんか、・・・けっこう困ってそうや」
「うん。 そんな気ぃするな。 やから、明日、話聞くわ」
「・・・そやな。 明日やったら、・・・間に合うかな・・・」
もちまるの言葉は、ちょっと歯切れが悪かった。
少し気にはなったけれど、僕は僕で困っているので、それ以上、あまり考える余裕もなくて、もちまるの言葉をとりあえず、聞き流した。
自宅に着いてすぐ、近所の自転車屋へ行き、修理をしてもらって、帰宅した。
結局、迷いながらも、もちまるも一緒だ。
時間は、まだ夕方の5時前だ。
両親は、中学の教師なので、当然、まだまだ帰ってこない。
兄の和志も、片道1時間かかる大学に通っていて、やっぱり、まだまだ帰ってこない。
中学生の妹 萌も、部活で、たぶん、まだ帰ってこない。
つまり、今、家にいるのは、もちまると僕のふたり(?)きりだ。
制服から、ジーンズにパーカーという姿になった僕は、ローテーブルとベッドの間に座る。
「お待たせ。もう話できるで」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます