第13話驕る馬鹿
「おい、腹減ってきた。何か持ってこい」
「は、はい。パンでいいですか?」
「パンだぁ〜?んなもん腹の足しになる訳ねーだろ!肉だ、肉もってこい!」
「はぁ、お待ちください」
インドラ国アゼリアンへ続く道を移動する謎の一行。
数百を超える兵は各々が武装し、足並みを揃えて進軍する。
その進軍の中央に大きな馬車が1つ。
中にはインドラの王シヴァ神と契約した1人の生徒が尊大な態度で座っている。
名は
涼太と同じ3-Aに所属し、1年生の時に同級生に対してのいじめ、暴行事件を起こし停学歴のある粗暴な生徒。
高村はシヴァと契約を結んだ後、インドラ国首都ラーヴァナのとある宮殿に飛ばされた。
そこは王であるシヴァ神の宮殿であり、それを護衛する兵や将、総勢約4万人ほど抱える国家の中枢だった。
「のう薫よ。此度の戦、恐らく神聖王国にも、お主同様に契約者が多数いる。本当にお主は元学友達を殺せるのか?」
馬車の中、高村薫の手首についたブレスレットから、年配者と思われる声が高村に話しかける。
「ったりめーだろ。あいつ等には何の義理もねえ。欲望に忠実に生きる理想の世界。そんな俺好みの世界へ作り変えられるチャンスだ。見逃す手はねーよ」
「それを聞いて安心した。戦闘時はワシの力を存分に使うがいい。万が一の時は宝玉を持って逃げよ。宝玉さえ奪われなければ我々の負けでは無い」
「誰が万が一だって?んなことある訳ねーだろ」
会話中に先程命じた肉料理が目の前に届けられる。
「おっせーんだよ!!てめーがモタモタしてるからだぞボケ」
料理を持ってきた女の子を高村が蹴る。蹴られた衝撃で少女は後ろの壁にぶつかる。
ぶつかった弾みでヘアピンが床に落ちた。
慌てて拾おうとすると高村がそれを踏んで笑う。
「前髪下ろした方が俺の好みだから、今後一切ヘアピン禁止な」
そう言ってゲラゲラ笑うその姿はゲスという言葉以外何も見当たらない。
蹴られた女の子が高村を睨む。
「なんだよその目は。てめーが誰に生かされてるか分かってんのか!あぁ!?」
その女子の名は
涼太、高村と同じ3-Aの生徒で、夏まで吹奏楽部に所属していた比較的真面目で気の強い生徒だ。
契約相手は女神サラスヴァティ。
日本では弁財天と呼ばれ七福神の1人としても有名な神だ。
柳澤瞳は契約後、高村と同じ首都ラーヴァナ繁華街の路上にいた。
この世界に来てすぐ、サラスヴァティの楽器召喚能力と、元吹奏楽部の腕前で路上ライブを実施。多くのラーヴァナ市民を魅了し、金を稼いでいた。
契約から2日後、繁華街の路上で通りかかった高村と出会う。
クラスメイトに会えた喜びから高村のもとへ駆け寄るが、高村は既に瞳の知っている高村ではなかった。
元クラスメイトを見つけた高村は、手に入れたシヴァ神の強大な力を見せつけるように、路上で瞳を痛めつけ自分に服従するよう迫った。それ以降、柳澤瞳はまるで高村薫の奴隷のように扱われている。
「おい瞳、この戦いはお前ごときでも俺の役に立てるチャンスだ。お前の奏でる音楽で俺達がパワーアップ出来りゃ、王国の連中など雑魚みたいなもんだ」
高村は瞳を見下ろしながら続ける。
「ちゃんと言う通りにやれば命を取らないばかりか、俺の愛人くらいにはしてやってもいい。俺の愛人になりゃ好き勝手贅沢出来るぜ。但し、俺の命令は絶対だがな」
高村は下卑た視線で瞳の全身を舐め回す様に見る。瞳は俯きながら反論せずに黙り込む。
「でも残念だがお前は愛人止まりだ。正妻には桐谷透華を付けるつもりだからな。あと田中瑠々もだな。あいつら2人は、この世界では俺の所有物だ、ぶっハハハ!」
強大な力を手にした途端、人はここまで腐るのか。柳澤瞳は人間というものに恐怖を覚える。
もし自分が同じ力を手にしたら同じことをするのか。答えはNOだ。自分なら人や世界の幸せの為に力を使う。
この男は自分とは根本的に違う人種。なんとしても暴挙を止めなければならない。
だがここは見知らぬ異世界。
周りに協力出来る人もいなければ、単純な力では高村には敵わない。
瞳は高村の話を聞きもせず、俯き目を閉じ解決策を考えていた。
間もなく午後になる。
シヴァ神とその契約者は、目と鼻の先の国境沿いの都市アゼリアンの街並みを見つめながら気持ちを昂らせていた。
その約15時間ほど前
俺こと、仲立涼太は悪魔退治を終え、4つの魔石収穫の成果に浮かれながら宿に戻った。
「おかえり涼太くん。遅いからすごく心配したんだよ」
「ごめん。あの後ウンディーネについて聞き込みしてたら遅くなっちゃって。でもいい情報を得たよ!」
ルルに夕方得たウンディーネの神話の内容を伝える。
「おー!さすが涼太くん!でもそれと解放条件ってどういう関係があるんだろ」
ルルは首を傾げながら考えるが、答えは分からないようだった。
「でも遅くなった理由はそれだけじゃないでしょ?」
ルルがジト目で俺の顔を覗き込む。なんか怪しまれてる気がする。
仕方ない。どうせ魔石を見られたらバレるだろうし白状しとくか。
「実は4人の相手をしていたんだ。割と余裕だったよ。まだまだイケると思う」
「へ?」
「4人それぞれに新しい技を試したよ。かなり興奮したね!気持ちよかったよ!」
「りょ、りょりょ涼太くん?」
「新しい技も試せたんだ!最後の相手なんて追いかけて背中から襲いかかるんだ!すごいでしょ!!」
「な、ななな何してるのばかぁー!!!」
ボフッ!思いっきり顔に枕を投げつけられた。
「りょーた。その言い方は残念過ぎです」
ルシアが悲しそうな声色でボソッと呟く。
「え、悪魔退治だよ!?草原に行って悪魔を4人・・・あ、4体か。倒してきたって話!」
それを聞いたルルは唖然とし、その後顔を真っ赤にしてベッドにうずくまった。ベッドに顔を埋めながら「ばかっ」と呟かれた。
翌朝、早めに荷物をまとめ宿をチェックアウトする。
今日は午後から、シヴァ神とその契約者の凱旋パレードが行われる。
既に街には規制用のロープが張られ、既に観衆も集まり始めていた。
「こんなに人がいるんだなこの街」
「ほんとだ。お祭りみたいだね」
人の集まる所に儲け話ありじゃないが、パレードの行われる大通りには数多くの屋台が出店していた。
俺は昨日の収穫の魔石でフランクフルトの様なものを、ルルはアクセサリーを吟味し購入していた。
午後になり、観衆がより一層騒ぎ出した。どうやら行軍が近くまで来ている様だ。
群衆をかき分け、ルルと俺は大通りに面した視界の良い場所へ出た。
「おおお!見えてきたぞ!」
「シヴァ様ー!カオル様ー!」
群衆が一斉に歓声をあげる。
カオル様?高村!高村薫か!
よりによって高村とは。あのヤンキーがシヴァの契約者なのか。
変なことになってなきゃいいと、不安を抱きながら行軍が来るのを見守る。
行軍の中心付近に差し掛かると大きな馬車が見えてきた。
「あ、瞳ちゃん!瞳ちゃんだ!」
ルルが馬車の先頭に座る柳澤瞳に気付く。
シヴァの契約者はヤンキー高村ではなく、真面目な柳澤だったのか?
自分の名を呼ぶルルに気付いた柳澤は目を丸くし
「瑠々!?どうしてここに!?」
ルルが馬車に近づき柳澤と再会を果たす。
「会いたかったよぉ〜。大丈夫だった?怪我とかしてない!?」
ルルは嬉しそうに破顔しながら柳澤に抱きつく。
柳澤の知り合いを確認した御者が、気を遣って馬車を止めた。
「瑠々!聞いて。この馬車にもう1人乗っていて、そ」
柳澤がルルに何やら慌てて伝えようとした途端、バタンと馬車の扉が勢いよく開かれた。
「あ〜?誰が行軍を止めていいと言ったんだ?」
馬車の中から出てきたのは高村 薫。うちのクラスの暴力系問題児だった。
「おい、てめえ。誰の許可で行軍を止めた」
馬車を止めた御者は驚き、平伏し許しを乞う。
「勝手なことをしたてめえには神の裁きだ。おい、シヴァ」
シヴァの名を呼んだ途端、高村の身体が青いオーラに包まれる。高村の体は筋肉隆々に変わり、髪の毛は伸び、額の中心が横に割れ、そこにもう1つ目が現れた。
それを見た観衆は皆、地面に平伏し何やら怯えながら念仏の様なものを唱えだした。高村の方に目をやると、片手に持った三又の鉾を御者に向けていた。
「ぶっハハ!お仕置だ!神の裁きを受けろ雑魚が」
まずい、あの御者殺されると思ったと同時に咄嗟に身体が動いた。
高村が御者に向け鉾を突き出す瞬間、すかさず御者を突き飛ばす。間一髪で御者は鉾の餌食にならずに済んだ。
「あ?あああ?!誰だコラっ!?」
「やめろ高村。何やってんだよお前。罪の無い人を殺すな」
高村を睨みつけ諌める。
「あ?誰かと思えば盗撮野郎じゃねーか!?ぶッハハハハハ!こりゃウケるわ。こんな所で何してんだお前!盗撮でもしてんのか!?ウケる!」
煽るを通り越した挑発に、怒りを通り越して若干呆れてしまう。
「何もウケねーよ。俺達はここに来るはずのうちの生徒を待ってたんだ。それなのにこんなに。驕るのも度を超えてるぞ高村」
「おい、さっきから誰にものを言ってる?カオル様だろ盗撮野郎」
「カ、カオル様?!何言ってんだお前?」
思わずルルの方を見るが、黙っている柳澤が心配らしく青ざめている。そんなルルに気付いた高村が
「へぇ。どういう組み合わせか知らんが田中、いや瑠々もいるのか」
下卑た笑いをした後、高村はルルに向かい
「おい瑠々。こっちに来い」
その言葉にさすがに俺も怒りを覚える。
「何様のつもりだ高村。いい加減にしろ。おい柳澤、こいつに一体何があった?」
横で小さくなっている柳澤に問いかける。
「何があったって、私も知らないわよ!ただ、こいつの力は異常なの!私じゃどうにも出来なくて!」
「おい瞳、てめーも何勝手に喋ってんだよ。後で神の裁きだからな。覚悟しとけ」
この状態は放置出来ないと判断する。
ルシアと融合してでもこいつを抑えなければ、柳澤もだがルルも危ない。ルシアを握り戦闘合図を送ろうとした途端
「きゃっ!」
シヴァの力で変貌した高村が柳澤の髪を掴みながら、ルルに対し告げる。
「おい瑠々!瞳の命を助けたければこっちに来い。お前には俺の正妻としての役割を与える。桐谷も一緒にな!心配すんな、ちゃんと可愛がってやるよ」
ヘラヘラ笑いながら、柳澤を人質にルルを脅しだした。
「や、やめて高村君!その手を離して!」
「黙れ!神に向かって口答えするんじゃねえ!いいから早くこっちに来いクソが!!」
これ以上は許せん。こいつの理不尽はここで潰す。
「ルシアッ!」
高村は俺がルシアへ呼びかける声に被せる様に
「聞け!愚民共!そこにいるそいつは神への冒涜のみならず、神の妻に手を出す変態鬼畜のクソ野郎だ。今すぐ捕らえて牢獄にぶち込んでおけ!」
「なっ!?」
最初は躊躇していた観衆も、やれ!と凄む高村に対する恐怖に耐えきれず、大勢で俺に掴みかかる。
さすがに一般人には手を出せず、地面にうつ伏せにされ捕縛された。
「ルル!!」
両手両足を抑えつけられながら叫ぶ。
高村に腕を掴まれ、ルルは心配の目でこちらを見ながらも、馬車へ連行される。
「涼太くん!私は・・大丈夫だから、無茶しないで!」
その言葉を最後に儚げな笑顔で、ルルは馬車に乗りこの場を去った。俺に対しニヤニヤと勝ち誇る高村と共に。
最果ての理想郷?そんなご都合主義は俺と悪魔でぶっ壊す!~人生悪役の俺が悪魔と契約して転移した先の異世界で成り上がりの大逆転するから覚悟しとけ!~ 月夜見月 @ashuratean
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