第12話水の大精霊

宿へ戻るとルルは窓の外を眺めていた。

俺が部屋に戻ったことに気付き


「おかえり涼太君、って、あ!」


着替えた俺の服装を見て、じーっと眺めた後


「・・・。め、めっちゃ似合ってるよ!かっこいいね」


俺の服装を見て反応に困ったのか無言だったが、最後は気を遣って褒めてくれた。

食事を済ませた後、それぞれが入浴で旅の汚れを落とし、今は二人とも部屋でくつろいでいる状態。ルルは足首に腫れ薬を塗っている。

ここで明後日のシヴァ訪問に向けての計画について切り出す。


「ルルにもさっき伝えたけど、明後日シヴァ神とうちの生徒の一人がこの地に来るんだ。誰なのか確認してから接触を計ろうと思うんだ」


「うん、私もそうしたい!誰か分からないけど、きっと協力出来ると思う」


「そだね。お昼から凱旋パレードがあるらしいから、そのタイミングで探し出して話しかけよう」


「うん。私も協力するね!」


ルルが嬉しそうだ。

他の生徒と接触出来れば協力体制も可能だ。それにクラスメイトに会えるのが嬉しいのだろう。子供のように足をパタパタさせている。


「それで明日だけど」


「はいっ!私も服を買いたいです!ゆっくりならもう1人でも歩けると思うの!」


「無理しないならいいと思うよ。俺も準備したいものがあるから明日は買い物に出よう」


「でも残りのお金使っちゃうことになるけど大丈夫かな。私の服は我慢しても大丈夫だよ?」


「まだいくらか残ってるから大丈夫だよ。でも近いうちにまた魔石収集をしなきゃいけないと思う。その時は頼んだぞルシア」


ルシアがお任せくださいと自信満々に返事をする。


「じゃあ明日は早めに出て、先に買い物を済ませよう。その後はルルの契約者である精霊ウンディーネについて、街の人に聞き込みしてみるよ。ルルはその間部屋に戻ってて」


「うん、ありがとう。じゃあ今日は早めに寝とくね」


その後暫くして怪我をしているルルはベッドで。俺はソファで眠った。


翌朝、宿泊の延長手続きを済ませてから、ルルを支えながら繁華街へ出かけた。

まずはルルの服を買いに女性向けの服屋に入る。

元の世界でもこの世界でもやはり男には少し居心地が悪い。

店員さんとルルが楽しそうに服を選んでいる。


「涼太君、どうかな?」


試着室から出てきたルルが、照れながら着替えた姿を見せてきた。


「ぉおおお・・・」


パレオと言うのだろうか。腰に巻いた布は鮮やかに青く、上の服も黒いインナーに綺麗な模様が刺繍されたカーディガンのような服を羽織っていた。


「ちょっと露出が恥ずかしいけど、動きやすいし、かわいいかなって・・・どうかな?」


「め、めっちゃ似合っております!」


鼻息荒めに全力で答えてしまう。キモかっただろうか。


「よかったぁ。色も涼太くんと合わせてみたの」


俺の服に似た青と黒基調の色味であることに気付く。

なんか照れくさいけど悪い気はしないので全力で褒めておいた。

その後は屋台で昼食を取り、ルルはこれ以上怪我が悪化しない様に宿へ送り届けた。

1人になった俺は、残り少ない所持金で再び商店街へ向かう。


「まずはバッグ。出来れば少し容量の大きめのものがいいな。それと武器が欲しいところだ」


ルシアにも相談したが、格闘術だけだと危険度が高い。

相手との距離がとれ、扱いやすく持ち運びもしやすい剣やナイフを探そうと思う。

冒険道具屋という店を見つけたので中に入る。

店主と思われる男に要望を伝えると、それっぽい品々を持ってきてくれた。


見せてくれたカバンは革製の斜めがけのタイプ。容量はそこそこ入りそうなサイズだったので、一目で気に入り購入した。

肝心の武器は、刃渡り長めの鋼のナイフを勧められた。

バスターソードと名の付くかっこよさげな剣もあったが、残念だか所持金が全然足りなかった。

結局ナイフを購入し、腰に装備する。

これで戦い方のレパートリーが増えそうだ。


暗くなるまで時間がありそうなので、ルルの契約者ウンディーネについて聞きこみをすることにした。

道行く人に尋ねたが、ここはシヴァ神崇拝の国インドラ。

信仰する宗派の違いなのか、大精霊について詳しく情報を持っている人はいなかった。

これ以上無理かと諦めかけていた時、自称旅の者と騙る男が近づいてきた。


「そこの兄ちゃん。大精霊ウンディーネについて知りたいんだって?」


「ああ、はい。彼女にまつわる神話について調べているんです。何か知ってるんですか?」


「神話か。前に神聖王国を旅してる時に一部だけ聞いたことがある。俺の知ってる情報でいいなら売るぜ?」


ほぼ使ってしまい所持金がない旨を伝えると、全額払えば教えると言う。

実はルルには内緒だが、この後ルシアと悪魔退治に出るつもりだったため、承諾し全額を渡す。

金を受け取った男は俺に向け静かに語り出した。


「ウンディーネはもともと水の精霊として神聖王国にある人間は寄りつかない泉に棲んでいたらしい。

ところがある日、人間の男が泉に迷い込んだ。驚いたウンディーネは身を隠すが男に見つかってしまう。

男はウンディーネを人間と違えて恋をしてしまう。

ウンディーネは最初こそ警戒していたが、気さくな男に興味を持ち、そのうち心を許していく。

翌日、ウンディーネが泉の近くで悪魔に襲われ怪我をしてしまうんだ。それを命がけで男が助けた。

それがきっかけでウンディーネは男を愛してしまうんだ。

すると彼女は人間の姿を手に入れ、それから男の一生を共に過ごしたらしい」


以上こんな話だ、とひと通り語り終え、旅の者は俺の全所金を手に去っていった。


ふむ。解放条件がさっぱりわからん。

怪我がきっかけ?いや今もう怪我してるしな。人間との出会い的なやつか?

とりあえず何かの手がかりになるかもしれないので、戻ってたらルルに伝えよう。

情報収集も一通り終わったところで、辺りは日が暮れてきた。

予定通りに悪魔退治に向かうことにする。魔石回収が目的だ。


市街地を離れ、見晴らしの良い草原地帯に到着する。


「ルシア、この辺でいいのか?」


「はい。この辺りに微弱な魔力をいくつか感じます。戦闘体制に入りましょう」


意識を集中させる。

事前のルシアのレクチャーでは、戦う意思をルシアに伝えることが融合の合図になるらしい。


「ルシア、力を貸してくれ!」


ルシアが妖しく輝く。


「マスター松永涼太の戦闘意思を確認しました。これより融合及び第1形態進化に入ります」


ルシアの機械音声が話し終えると、先日のガーゴイル戦同様に、ルシアが体内に溶け込んでいく。目の前の空間が歪み、身体が闇に包まれる。

闇が晴れると、そこには前回同様に姿が変貌した俺がいた。


悪魔との融合に反応してか、4体の悪魔が俺を取り囲むかの様に集まってきた。

2体は、人の体に大きな頭と細長い尻尾、手にはフライパンの様な武器を持っている悪魔。

もう2体は、鳥の羽と爪を持つ女性の姿の悪魔だ。


「ウコバクとハーピィです。両方スピードタイプですね。攻撃力はたいしたことないです。攻撃をかわしながら反撃していきましょう」


「了解。間に合わない時は結界を頼む」


「お任せくださいマスター」


まず、ウコバク2体が同時に遅いかかってきたので、その間を抜けるように2体の後ろに回る。

今日買ったナイフを試すため、腰の革製ケースから抜き取り構える。


「恐らくまた同時に遅いかかってきます。隙を見て反撃してください」


ルシアの言う通り2体同時に襲いかかっきたため、それぞれの攻撃をかわし、まず1体の脇腹にナイフを突き立て切り裂く。

グエッ、という悲鳴と共に一体が煙となり消える。それを見て怖気付いたもう1体が逃げ出したため、持っていたナイフを投げつける。

ナイフは逃げる悪魔の後頭部に刺さり絶命する。


続いて素手となった俺を狙い、空中からハーピィ2体がすかさず襲いかかってきた。


「マスター、魔法を使いましょう。まずは距離をとってください」


「魔法!?俺にも使えるのか!」


「もちろんです。第1形態では2種類の魔法が使用可能です」


ハーピィの爪を避けつつも距離をとる。


「まず1つ目です。左手を相手にかざし雷撃を左手から放出するようイメージしてください」


言われた通りに左手を片方のハーピィにかざす。そこから雷撃を放つイメージを浮かべる。


パチ、パチパチッと俺の腕全体に電気が纏われる。


「今です。放ってください」


ハーピィめがけて放電するイメージで狙いをすました。

すると、音速に近いスピードで加速した電磁砲が一直線にハーピィに直撃し、まっ黒焦げになり消滅した。


「今のがレールガンです。遠距離戦や、相手の動きを止めたい時に有効です。射速もマスターの持つ魔法の中で最速です」


残るは1体。味方がやられ、空中で悔しそうな顔でこちらを睨んでいる。


「ニンゲンノクセニ。コロス!」


最後の一体が急降下で鋭い爪を向けこちらに迫ってくる。


「ではもう1つ。同じく左手から複数の魔力の矢を放つイメージです」


「やってみる!」


こちらに向かって飛んでくるハーピィめがけ左手をかざす。

黒い魔力の矢が左手の甲辺りに8本浮かび上がる。

意識を集中しハーピィに目がけ矢を放つ。

8本の矢が放たれ、ハーピィめがけて飛んでいく。

しかしハーピィは旋回し飛んでくる矢をことごとく躱す。


「すまん、外したっぽい!」


「大丈夫です、マスター。見ていてください」


ハーピィの横を通り抜けたはずの魔力の矢がUターンし、8本全てハーピィの背中に刺さる。

直後ハーピィは黒い霧となり消えていった。


「今のはホーミングアロー。複数の相手にも有効です。計8本の矢が、対象に当たるまで追いかけます。複数相手の場合はオートで分散し、最大8体への攻撃が可能です」


おおお、これはかなり使える魔法を習得したぞ。

遠距離からでも攻撃可能になったのはデカい。

実はさっきナイフでウコバクを刺した時、ちょっとグロくて抵抗があったのだ。

全ての悪魔を倒し、ルシアとの融合を解く。


「お疲れさまでした、りょーた。もう遅いので魔石を回収して宿に戻りましょう」


言われた通り、回収した4つの魔石をバッグに入れ、宿へと戻った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る