第104話 私は応援、していますよ……!


「……なんて言いましたけれど、本当はわたくしもエルピディオ大神官様の気持ちが理解できましたのよ。わたくしも母を、幼い頃に病で亡くしておりますから」

「あ……!」


 そういえば、ニーナさんの家族構成のところに、お母様の記載だけなかった気がする!


 ニーナさんが寂しそうに笑う。


「わたくしの持つスキルが《治癒》だと判明した時、わたくしとても悔しかったのですわ。もっと早く、それこそお母様が亡くなる前にこのスキルを授かっていたら、お母様は助かったのに! って……もちろん、スキルは十六歳で授かるもの。間に合うはずもないとはわかっていたのですけれど……でもそこへエルピディオ大神官様がやってきて、こうおっしゃったの」


 言って、ニーナさんはわざわざロクアン王国にまでやってきたというエルピディオさんの真似をして言った。


『ニーナ殿、君は確かに母親を救えなかった。そしてそれは僕も一緒だ。だが、僕は聖女たちをたくさん見つけることで、間接的にあまたの命を救ってきたと思う。同時に君も、あまたの命を救えるはずだ。誰かの母親、誰かの子ども、そして誰かの愛しい人の命を、僕と違って君は自分自身の手で救えるんだ。――君はそういう力を持った、尊い女性なんだ』


 と。


「その言葉を聞いた時……わたくしの未来は決まりましたわ」


 ニーナさんが胸に手を当ててふわりと微笑む。


「私は聖女として皆様の大切な人をお救いしようと。そして……エルピディオ大神官様に、一生ついていこうと決めましたの」


 言って、ニーナさんの頬がポッと赤らんだ。


 ……………………ん?


 なんだろう、この感じ。どこかで見たことあるような……。


 既視感のある答えを考えながら、私はぐっと目を細めた。


「あっ」


 それから気づく。

 今のニーナさんは――まるでテオさんのことを嬉しそうに話すセシルさんのように、なんともいえない甘酸っぱい表情をしていたのだ!


 も、もしやこれは……!


 私がごくりと唾を呑んだ時だった。


「………………大神官大神官って、ニーナは本当にそればっかりだよなぁ」


 今度はぶすっとした顔でヘンリクさんが言ったのだ。


 …………ん!?


 またもや違和感を覚えて私が目を細める。


「それは当然でしょう。わたくしをこの道にお導きくださったのは他ならないエルピディオ大神官様なんだもの。いわば、わたくしたちの親も同然ではありませんか」

「親……ってぇーか……だとしてもニーナのそれは、ちょっといきすぎてんじゃねぇーの?」


 かつて見たことがないほどぶすーーーっとした顔でヘンリクさんが言った。

 その表情はまるで、構ってもらえなくてすねている子どものようで。


 …………んんん!?


「そんなことありませんわ。それに、エルピディオ大神官様は本当に尊敬に値する人物です。わたくしたちは働きづめとよく言われますが、エルピディオ大神官様はそれこそ寝る間も惜しんで連日働いているんですのよ? ヘンリクあなた、大神官様が休んでいるところを見たことがありまして?」

「それはないけども……」

「ほぅら。少しでも多くの人を救いたいという高尚な目的のために大神官様は働きづめなのですわ。治癒を使っても取れないあの隈も、まさにその証。そんなお方を崇め奉るのは、当然ではありませんか」

「ふぅ~~~~~~~ん。俺はそうは思えないけどねぇ」

「んもう。ヘンリクったら何をすねていらしているの? 最初はあなたも賛同してくださっていたのに……最近のあなたは変ですわよ?」

「べっっっつに~~~~~~?」


 言って、ヘンリクさんがつーーーんとそっぽを向いてしまう。


 ……。


 …………。


 ………………なんだろう、この感じ。


 私、こういうことにはあんまり、というか全然、詳しくないんだけど……こう、なんていうか……! なんていうか……!!!


 私がむずむずしていると、フィンさんが周りに聞こえないよう、小さな声で囁いてくる。


「……ララ。もしかしてヘンリク神官は、ニーナ神官のことが好きなのか……?」

「や、やっぱりそう思います……!?」


 こういうことには自信がなくて言葉にはっきりできなかったんだけれど、でもフィンさんまでもがそう思うってことは、やっぱり……?


「でもニーナ神官は、どちらかというとエルピディオ大神官に心酔しているようだな……?」


 コクコクコク。


 私は力いっぱいうなずいた。


「……となると、ヘンリク神官はずいぶん苦労しそうだな……」


 コクコクコクコクコクコク。


 私はまた力いっぱいうなずいた。


 頑張れ……ヘンリクさん……!

 心の中でこっそり応援することしかできないけれど、私は応援、していますよ……!


 私はぐっ! と心の中でエールを送った。







***

ララとフィン、自分のことには超がつくほど鈍感なのに、他の人の恋のかほりはきっちり嗅ぎ取る。

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【コミカライズ開始!】はらぺこ令嬢、れべるあっぷ食堂はじめました~奉公先を追い出されましたが、うっかり抜いた包丁が聖剣でした!?~ 宮之みやこ @miyako_

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