第103話 聖女を見つける『使命』
――僕の故郷は、大陸から突き出た半島にある小さな村だった。
村は小さく人口も少なく、村全員が顔見知り。それぐらいの規模だった。
幸い半島は気候が穏やかかつ温暖で、たっぷりの太陽光を浴びれるおかげで作物もよく実った。
だから決して裕福ではないものの、村は活気にあふれ、みんな仲の良い平和な村だった。
けれどある時――そんな穏やかな村を、あるものが襲った。
恐ろしい、伝染病だ。
一番最初に、隣町に商品を売りに行った近所の旦那さんが倒れたかと思うと、そこからあっという間に病が広がったんだ。
――それはいつも僕たち親子を気にかけてくれていたおばあさんも。
――いつも力仕事を手伝ってくれていたおじさんも。
――いつも一緒に遊んでいた友達も。
――そして、僕のたったひとりの家族である母親も。
みんなみんな、病に倒れたんだ。
「村はあの規模にしては珍しく、ちゃんと聖女がいたんだ。けれど彼女ひとりで村の全員を治癒させることはできなかった。……なぜならその聖女も、倒れてしまったから」
当時のことを思い出しながら、僕はぐっと唇を噛んだ。
たったひとりで治療に明け暮れていた、壮年の聖女。
パワフルでよく笑う、ほがらかな人だった。
村で唯一の聖女として、寝ずに村を駆けずり回っていた彼女は精一杯頑張っていたと思う。
けれど……彼女にもまた、魔の手は忍び寄っていたのだ。
連日の過労で弱っていた聖女は、治癒する前に自らも病に飲み込まれた。
そして……打ち勝つことはなかったのだ。
たったひとりの聖女が亡くなると、残された人たちはなすすべもなく、病の餌食になっていった。
その後、惨状を聞きつけた大神殿から応援の聖女たちが来てくれてかろうじて僕は命を取り留めたが、村の人口の八割……いや、九割は亡くなってしまった。
そのせいでもはや、村の体裁を保つことが、できなくなっていた。
「僕の故郷は、そうして地図から消滅した」
僕の言葉に、ララローズ殿が大きな目を潤ませハッと息を呑み込んでいた。
「あの時の悔しさは決して忘れない。もし村にもうひとりでも聖女がいたら、結果は違っていたんじゃないかと」
たとえ何年、何十年経とうとも、この悔しさはきっと生涯消えない。
だから……。
だからこそ……!
「僕は決めたんだ。ひとりでも多くの聖女を見つけ出し、そしてすべての土地に聖女を赴任させ……もう二度と、あの悲しい歴史を繰り返さないと。そのために僕は、人生をかけるのだと」
◆
そう言ったエルピディオさんの瞳は、まっすぐ遠くを見ていた。
まるで、私たちにも見えない、遥か未来を見つめるように。
「そういうことだったんですね……」
エルピディオさんが聖女を見つけることが『使命』だと言った理由。
それを胸に刻むように、私はそっと手を当てた。
「なるほど……。だから聖女たちは、必ずふたりでひと組だと言っていたんだな」
フィンさんの言葉にエルピディオさんがうなずく。
「頭の固い大神官からはずいぶん怒られたよ。ただでさえ少ない聖女を、ふたりひと組にするとは! と。……だが、そういう奴らはすべて黙らせてやったがな」
そう言って、エルピディオさんがニヤリと笑う。その笑みはちょっと――いや、だいぶ邪悪で。
……え、エルピディオさん、一体どんなことをしたんだろう……!?
そういえばセシルさんが言っていたような……? エルピディオさんは『辣腕』って呼ばれていたって……!
そんな私の疑問に答えるように、ニーナさんがこそっと私たちに囁く。
「エルピディオ大神官様はね、スキルで次々と各地の聖女を見つけてあっという間に人数を二倍に増やしてしまったんですのよ。あと、お金持ち専用のスペシャルに高価な治癒院も作ったりなんかして、あっという間に収益は五倍」
「それだけ収益を増やせるなんて、神官さんというより商人さんですね……!?」
さらにヘンリクさんもそこに混じる。
「そんでもって『生臭な!』とか『けしからん!』って文句を言ってくる大神官たちの不正やら贈収賄やらを、どうやったのかガンガンあぶりだしてな。ぜーーーんぶ追い落としたってわけ」
「ひ、ひぇっ……!」
「ああ、なるほど。彼のスキルを使えば証拠を探すのもたやすいのか……」
隣ではフィンさんが何やら感心している。きっとフィンさんは、エルピディオさんのスキルの詳細を知っているのだろう。
「まぁ、でもね。やり方は多少強引なんですけれども……大神官様のあんな熱い思いを聞かされたら、わたくしたちも頑張ろうって毎回思っちゃうんですのよね」
「まぁなー」
ヘンリクさんが頭の後ろで手を組みながら言う。
「一番は金目当てではあったけど……やっぱ大神官様の言う通り、俺たちの力で人の命を助けられるのなら、それも悪くないよな」
「あら、わたくしは最初から人助けのために出てきましたわよ? わざわざ伯爵家まで捨てて」
えへん、とニーナさんが胸を逸らしてみせる。
「ニーナさんは本当にすごいですよね……!」
何を隠そうニーナさんはもともと伯爵令嬢だ。
本来ならば一生働く必要などもないはず。
それなのにわざわざ祖国を経ってまでこの環境に身を置くなんて……まさに聖女と呼ぶにふさわしい人だと思ったのだ。
私が褒めると、ニーナさんがふっと笑う。
***
噂と言うのはあくまで噂なんですよねー。WEB小説系だと、悪女の噂がよくひとりあるきしていますしねっ!
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