18
「【明け星さん】ねぇ……」
谷崎たちの様子もリアルタイムで見守る中、伊沢は、話に出てきたおまじないについて調べていた。
自力の検索ではまず見つかりそうになく、クレーン田中に救援を要請。
そうして、伊沢の戦友がみつけてきたのは、仁成大学のネット掲示板の、たったひとつの書き込みであった。
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183:名無しの仁大生
冬になって寒くなりましたね!
という訳でなにか面白い話ありませんか?
184:183
具体的には怖い話
185:名無しの仁大生
》》184
お前オカルトサークルだろ
186:183
なんでバレたし
187:名無しの仁大生
つ【URL】
■明け星さん
運が良ければどんな質問にも答えてくれるおまじない。
秘密の電話番号にかけると、必ず3コールで切れるが、折り返しで電話がかかってくることもある。
3回質問するごとに1回、明け星さんに質問権が回ってくる。
それに答えられなかったり、答えがある質問の場合は間違っていると、質問代分取り立てられる。
188:名無しの仁大生
なにこれ、聞いたことないな
189:187
オレも妹に教えてもらっただけ。
もしかしたら学校の七不思議系なのかもしれない。
190:183
え、面白そう。
ちょっと、リーダーに教えてみる
191:名無しの仁大生
183はやっぱりオカサーかよw
192:名無しの仁大生
187のURL踏めないけど、間違ってない?
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《 URL先の情報は拙者にも見つからなかったお(´・ω・`)<切腹
普通ネットに流した情報は見つかるもんなんだお。
どんなに規制しても、絶対どっかから魚拓がでるもんなのに……。
拙者の黒歴史HPとか(小声)
とりあえずまたなにかわかったら、報告するお
P.S.
拙者としたことが、仁大の掲示板についての情報を忘れていたでござる。
仁成大学掲示板とは、地底ちゃんねるに開設された、仁大生御用達の非公式掲示板のことである。
書き込むためには、学籍番号と誕生日入力が必要。
ぶっちゃけ根気よくランダムで数字入れてけばいつかは入れますし、学生証みれば簡単に成りすまし可能。
セキュリティ低wレベwwすぎwww プギャプギャ━━━m9(^Д^≡^Д^)9m━━━━!!!!!! 》
荒ぶる文面を見終えた伊沢が、椅子にだらりと体重をかけているのは、動揺していることを、周囲から誤魔化しているためだった。
……伊沢がなんどもなんども見直した、あの書類に記載された怪異にそっくりな内容だ。
(代償なんて書いてあるから、たぶん御呪いの方なんでしょーけど)
もし、この事件が【明け星】絡みのことなら、うんと厄介なことになる。
(ただでさえ、面倒くさそうなのに……)
うんざりとした気持ちが彼を襲う。
まだ、怪異あてをする方がマシである。
人的な要因がまざっていると見立てたこの事件は、恐らく伊沢が苦手な案件だ。
怪異の行動理念はいたってシンプルだが、人間が関われば関わるほど、急にことが複雑になる。
(論理的に割り切れないものほど、厄介なものはないッス)
とはいえ、嘆いていても仕方はない。
給料分は、伊沢も馬車馬のように働く義務がある。
さて、遠山側にも谷崎の情報は伝わっているが、待機組にはさらにもうひとつ。
法何ノアによって、新しい情報がもたらされていた。
「オカルトサークルは、想定していたよりも、怪異との接触が薄いようだよ。
弟も同じことを考えていたから、間違いないんじゃないかな?
警戒するそぶりも薄かったから、本当に一般人で間違い無いと思う。
能力者だったら、僕たちの残穢に驚くはずだろう?
既に僕たちを把握してる可能性も薄いかな。
身のこなしが、明らかに素人だったしね」
さて、好き勝手やっているように見えた法何ノアだが、その実は色々と動いていた。
天災されど、天才。
高い実力があるからこそ、彼は捜査官を務めているのである。
考えなしに動いているように見えたのは、単純に、囮のため。
彼に注目が集まれば、疑いもノアひとりに集中するだろう。
向こうからアクションがあれば、ノアであればなにがあっても返り討ちにできる。
何より、尻尾出し現行犯として取り押さえられるので、手間が省けるとすら考えてる。
「僕、面倒なのは、嫌いなんだよねぇ。
弟は緻密なの、好きみたいだけど」
(恐ろしい子ッスね……!)
内心、伊沢は舌を巻く。
なかなかに侮れないようだ。
「サークル部屋の特定もできるかと思ったんだけど、残穢からじゃあ辿れなかったよ」
「……気になっていたんですけど、その残穢というのは、意図的に隠せないんですか?
体臭には体臭対策があるように……」
「仮にそういうアイテムがあっても、残穢を感じ方はひとによってそれぞれなんで。
全方位カバーは無理ッスね。
ノアくんの話も合わせれば、そういうのを使ってる可能性も低いでしょーし。
……うーん、なおさら変な話ッス。
なんで、彼らはドッペルゲンガーに執着するのか……。
一応残穢自体は検出されてるから、怪異との関わり自体は0じゃないんでしょうけど……」
怪しいメンバーは、解散したサークルにも在籍していた。
しかし、廻斗の記憶と照らし合わせても、現メンバーには補導歴がない。
おそらく、彼らはまじめにオカルトに打ち込んでいたのだろう。
(それが、何故、その中のドッペルゲンガーに執着することになったんスかねぇ?
だって、明け星さんという御呪いにも、現在進行形でハマってるっぽいのに、mutterには一度も投稿していないのに)
ドッペルゲンガーを流行らせることで生じるメリットは、オカルトサークルにあることは、伊沢には既に想定がついていた。
しかし、そのメリットを得るために、【ドッペルゲンガーでなければならない理由】は、ない。
(……やべぇ。
なんか、なーんか、前提の時点でミスしてる気がする……)
がらにもなく、伊沢は、自分が焦るのを感じた。
できればそんなところはお首にも出したくない彼である。
イライラを誤魔化すように、こっそり爪を噛んだ。
『谷崎には教えてもらってばかりだ。
俺も、この捜査でしっかり結果を出さないとだな』
『……そうかい』
ふと、通信機越しに流れてくる会話。
何故だろう。
伊沢の毒気が、少しぬかれた。
当人たちはいたって真面目であるのに、理不尽にも伊沢には暢気なように聞こえてくる。
(ひとが真面目くさってるときに、アオハルみたいな会話しやがって……)
隣で聞いていた廻斗も、自分の話題にうつったあたりから、微妙な顔をしていた。
いつのまにかおネムの時間だったのか、ノアはすやすやとテーブルに突っ伏しているため、おとなしい。
ノアに廻斗のジャケットがかけてあるのを見て、(おやおや)と伊沢が笑った。
「憧れてるですってよ、お兄さん」
「はは、光栄だなぁ」
廻斗はやや棒読みに返事をした。
「コイツら、こんなこと話し出すなんて、恥ずかしくないのか? 」
「後から恥ずかしくなるかもしれないッスね」
「ざまぁみろ」
「てか谷崎さんて遠山くんに……」
「さぁね、どうでもいいかな」
おそらく17時には、うんと忙しくなる。
煮詰まった思考を、解くにはちょうど良い、ただの世間話だ。
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