15

 一方、視線は切り替わり……



「或斗、法何、ターゲットと昼食の約束を取り付けることに成功しました。

 急接近が期待できます」


「了解ッス!

 いやぁ、やったッスねぇおろろろろろろ……」


「汚ねぇ」



 バケツを抱えて、胃の内容物をぶちまけ続ける。

 そんな伊沢に廻斗は露骨に嫌そうな表情を浮かべる。




「具合悪いの?


 ノロ?

 なんにせよ、うつさないでね」



「いや、青春酔い」


「捜査中に青春を感じるなんて、すごく余裕なんだね☆」




 訳:まじめにやれ



 戯けたようにキラキラスマイルを浮かべるが、暗にそのように抗議している。


 遠山の場合は直球に突っ込むが、廻斗はこのように遠回りに嫌味をいうのが、好みであるようだ。



 発せられる暗黒オーラも手伝って、無事にその裏を読み取った伊沢が、ぶーたれる。




「だってぇ、ただでさえ門を潜った時点でキラキラしてんのに、あんな花より美男子もびっくりな囲まれ方……おろろろろろろ……刺す」


「そのふたり、さっき思いっきりドン引かれていたけど」


「そこは陰キャの宿命だからしゃあない。

 むしろあれがなかったら、刺す」


「法何も陰キャなのか?」


「あれは謎キャラ」


「せめて陰陽で分けろよ」


「あれは〝法何ノア〟というカテゴリ、ジャンルなんで」


「違いないけど」


「でしょー?

 あ、谷崎さんの方も、オカルトサークルのメンバーにうまく取り入ってるッス。


 留学生設定を活かして、ウィジャボードの話でもりあがってるッスねぇ」


「海外版こっくりさんじゃん。

 いやな話題だなぁ」



 雑談のように軽口を交わしながらも、仕事はきっちりこなしている。

 遠山とはまた違う形で、良いコンビなのかもしれない。




「お兄さんの方は、怪異は今んとこ大丈夫そ? 」


「今生きてるのが、答えですかね」


「昨日も目撃証言がでたのに、落ち着いてるッスねぇ 」


「いちいち驚いてたら身がもたねぇよ。

 警察は体力仕事でしょ。


 ……それ、アイツに聞いたの? 」


「お兄さん思いの良い弟くんッスねぇ、慌てて電話かけてきてたッスもん」


「どーだかねぇ」




 今は仕事で口をきいているが、それ自体大袈裟でもなく、本当に久しぶりなことである。


 何が決定的だったのか、本人たちも特に思い当たらないが、本来兄弟仲は悪いのだ。



 兄弟思いなら、こんなことになんて、なってないだろうに。



 ぼんやりと、廻斗はそんなことを考えた。





「そういえばさ、『貉』好きなの? 」




 先ほど、遠山が〝好きな八雲作品〟について聞かれていた時、廻斗は何故かわざわざそのタイトルを、遠山に伝えていた。



「まぁまぁ。

 たまたま知ってるタイトルを呟いたら、間違えて通信してしまっただけ。


 僕にもうっかりがあるってことさ、今後気をつけるよ」



「ちなみに俺は『生霊』が好きッス」


「聞いてねぇよ」


「じゃあさ、お兄さんはどんな作品が好きなんスか?

 別に小泉八雲じゃなくて良いッスよ」


「好きな作品ねぇ……」



 決して、目の前のモニターから目を離さないまま、少しの間を経て廻斗が答えた。




「いまは、『駆け込み訴え』の気分かな』

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