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《まかせるでござるよリーダー!!三└(┐卍^o^)卍ドゥルルルルル
拙者ネット廃人であるからして、この程度のことは朝メシ前だおw
まぁ、拙者ひとりの力では無いですけどね⭐︎
ひとまず関連まとめ送りますぞぃ
つ[添付ファイル] 》
〝クレーン田中〟を名乗る相手が送付してきたファイル。
その中身は、件のブームに関連する、インターネット上の書き込みをまとめたものだった。
「田中くんは、俺の助手なんスよ。
ネット系に強いんで、特殊捜査課のサイバー担と連携して、こうして情報探してくれるんス」
(ネットに強い……)
遠山はつい兄の方を見た。
今回はよく、兄の顔を見る機会がある。
遠山の中で、身近にそういうことに強いのは、廻斗だ。
夏休みの自由研究課題として、一からプログラムを組んで、ゲームを作ってしまったこともあった。
現在もその気になれば、生業にできるほどのスキルを持っている筈である。
「なに、視線がうるさい」
「兄さんもそういうの得意だよなと思って」
「急に、気持ち悪いんだけど」
「お、お兄さんも強いんスか?
なら今回沢山こき使え……頼りになりそうッスね! 」
「今こき使えるって言おうとしただろ。
大体餅は餅屋でしょ。
例えネットに強くても、僕は怪異のことは分からないんだから」
真っ当なツッコミを最後に、ファイルの中身を検分する作業に入る。
小さな画面を3人で囲んで、読み上げる内容は、すべて苦しみに満ちていた。
《死にたい自分よりも、それに怖気付く自分が嫌い。
馬鹿だと思われるかも知れないけど、救いになると思って、噂を試してみようと思う》
《試すだけならタダ。
成功すれば、ラクになれる。
#ドッペルゲンガー
#死にたがりさんと繋がりたい》
《ドッペルゲンガーの噂を知ってる?
現代N国において本当に?信仰すべき都市伝説です…… →[https://〜〜]》
自殺に関して、遠山は共感することはできない。
しかし、それはたまたま、自分がそう思うようにはならなかっただけなのではないか、と思うことが有った。
彼らは、そう願ってしまうほどに、心が折れてしまっている。
……兄に憑く怪異が、レイスという別の怪異現象の可能性もあると聞いた時、遠山は実は、少しホッとしていた。
それは、何の解決にもなっていないのにも、関わらず。
「そもそも、このドッペルゲンガーブーム自体、事件になんの影響を与えてんの?」
「多分、ドッペルゲンガーを広める過程で、自殺願望を煽ってしまうのが、よくないんじゃないか?」
「ふーん、そういうもんなんだ」
「……いや。
これはそういう話じゃないッスね」
「これをみて」
と、低い声で伊沢が示したのは、ドッペルゲンガーを呼び出す手順の書き込みだった。
[強く本気で死を願えば、ドッペルゲンガーが、自分を殺してくれる]
「今回、ドッペルゲンガーが大量発生したのは、これも一緒に拡散されてたからッス」
「……手順ですか? 」
「あぁ、成程。
この、【願う】過程が駄目なのか」
「……?」
理解したらしい廻斗とは対照的に、遠山はイマイチ話について行けていなかった。
「怪異現象は、ただ、願望から発生するものですよね?
手順というのは、そもそも後付けに過ぎないのでは……?
あ、それとも、噂による付け足しで、怪異の変質が起きやすくなってしまうのが、不味いということでしょうか?」
「……ある程度強い願うことが、発生には必要なんだろ?
例えば、今まで、ぼんやり『死にたいなぁ』程度に思ってたから、怪異が発生しなかった人間が居たとする。
そういうやつが、この手順を踏んだから、今回やばいってことでしょ」
廻斗のヒントに、ようやく遠山も合点がいった。
「そうか、明確に強く願う過程が、駄目なのか」
つまり、ぼんやりだったために、強く願わないで済んでいたものを、今回は手順というものが広まったせいで、願いを強く明確に願ってしまうようになった。
故に、ドッペルゲンガーの引き金が、普段よりも容易に引かれやすくなり、結果大量発生に繋がったのだ。
例えば、手順を踏む怪異として、こっくりさんを例に挙げるとする。
この怪異は非常に曖昧で、基本的に都市伝説によくある『何かが起きてほしい』という願いから、発生する怪異だ。
こういう風に、発生傾向が一緒の場合、些細な状況の違いで、出現される怪異が分岐する。
残念ながら、それら全ての解明には至っていないのだが、こっくりさんの場合、手順にそえば、高い確率でこの怪異が発生する。
それは、この手順を取ることで、こっくりさんを呼び出すに値する願望を明確にし、強めることが出来るからである。
例えばその手順が後付けであったとしても、関係がない。
元々変質するような現象にとっては些事であるし、重要なのは、【手順に従う精神の過程】なのだ。
「今回は思ったより、解説なしで済みそうッスね」
「鈍感1名足引っ張ってるから、必要なんじゃない? 」
「……精進します」
「の割にはちゃんと教えてて偉いじゃないッスかぁ、お兄ちゃん? 」
「え?
そんな偉い俺と今度一緒に合コン行きたい?
しょうがないなぁセッティングしとくね? 」
「陰キャに対する嫌がらせを心得てるぞこの隠れ陰キャ……」
「隠れ陰キャなんですかこの人?」
「陽キャのノリに内心ドン引きながらヘラヘラしてストレス溜めてるタイプの陰キャ。
パーソナルスペースがアホほど広い」
「壮大な妄想おつかれ様」
それにしても、と遠山は考える。
(結局のところ、ブームを消し去るには、ネットのこういう書き込みを消していけば良いのでは?)
あとは、いつものドッペルゲンガー注意期間と同様の対処をとれば、次第に鎮火するのではないかというのが、遠山目線の感想だった。
「ネット上の情報全て消すのは時間がかかるし、下手に消したら勘繰るんじゃない?
やるなら、このブームを盛り上げてる中心の奴が飽きるようにして、ゆっくり鎮火させた方がいいと思うけど」
「ゆっくり鎮火させる暇はない。
怪異現象を長引かせるような方法は禁物だ」
「そうッスねぇ。
お兄さんのやり方が中々にベストなんスけど、長引かせるとどうなるか分からない。
この書き込みのノリで、変に尾鰭つけて広められたら、それこそアウトッス。
それに、ネットに上がってる以上、被害はここだけじゃあ収まらない。
多分、全国に影響出てるでしょうし……。
とはいえ、騒ぎの中心を特定するのは良いッスね!
ドッペルゲンガーに御執心してそうな、活発なアカウントをピックアップしましょう!」
ピロン♪
《そう思って、ピックアップ済みでござる
つ[添付ファイル]》
「……いつのまに、情報共有してたんですね。
伊沢さん」
「そんなそぶりなかったし、盗聴でもされてるんじゃない?」
「勘がいいお兄さんッスね」
「「え」」
「……さ!
早速中身を見てみましょう〜」
「待て待て待て待て」
「怖い怖い怖い怖い」
ドン引きのふたりに、伊沢は「合意だから良い」という謎の理論を展開する。
宣言通りに、新たなファイルをチェックすると、とあるSNSのアカウントが目を引いた。
【仁成大学 オカルトサークル】
「ここ、めっちゃmutterでドッペルゲンガーについて呟いてるみたいッスね。
しかも、遡ると此奴らの書き込みが、ブームの先駆けになったみたいッス」
「この大学って……」
「へぇ……」
一人暮らしのワンルーム。
敷物の上で冷たくなっていた被害者を、遠山は思い出す。
「5人めの被害者が、通っていた大学と同じです」
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