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「つまり、このイケメン2号くんは、捜査一課の警部さんで、遠山くんのお兄さんだと?」
なんとか宥められた伊沢だったが、そのテンションは著しく低下していた。
先ほどまで彼を荒ぶらせていた当人は、
「弟と被るので、廻斗で良いですよ?」
と距離を詰めようとし、眩しいオーラに当てられて、伊沢はとうとうソファの後ろに縮こまっていた。
遠山 廻斗。
彼は、遠山或斗の双子の兄だ。
一応一卵性なのだが、周囲からは全く似ていないと言われ続けてきた。
何事もそつなくこなし、人望もある。
加えて、目つきも悪くない。
容姿端麗、頭脳明晰、有智高才の評価を欲しいままにする彼は、身内である遠山としても鼻が高いのだが……。
彼は兄の本性を知っていたので、中々素直に尊敬できなかった。
「あー、もうっ!
早く本題に入りましょうッス!
どうせ事件絡みなんでショ?」
「あ、この書類なんですか?」
「兄弟揃って自由なところはそっくりなんスか?!
そんなの、捜査一課の人が見ても利益ねぇッスよ!」
「そうなんですか?
すみません、物珍しくて」
照れ臭そうな表情で、廻斗が頭を掻く。
その様子に遠山は内心ハラハラした。
これ以上彼の機嫌を損ねないように、さっさと書類を取り出す。
「では、早速本題に入りましょう」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
【抵抗のない殺人】
それは、新たにこの土地で起きた怪事件。
明らかに他殺であるにも関わらず、他人が侵入した痕跡がなく、争った形跡も一切ない。
数日のうちに既に4人の死亡者を出し、巷では【望まれた殺人】とも呼ばれ、早くも噂されている。
とはいえ、不可解な事件ではあるが、単なる嘱託殺人の可能性もある。
一見すると、特殊捜査課の出る幕ではないように思えた。
しかし、これらの事件は結果として、〝怪異事件〟として認められることになった。
それは、単純に、現場から怪異の残穢が確認されたこと。
それに加えて、被害者身辺から、多くの奇妙な証言を得たことが、決め手になった。
そして、新たな被害現場に、遠山或斗も怪異捜査官として、捜査に訪れていた。
囘木市睦月にあるワンルームマンション〝Mハウス〟の305号室。
黄色いテープを潜り、ゴミに埋もれた廊下を進めば、5人目の被害者の姿はあっさり確認できた。
桜井みく、21歳女性。
仁成大学に通っていた、未来ある若者であった筈の彼女は、敷物に多くの血を染み込ませて、既に冷たくなっていた。
……怪異捜査でも、死体自体は珍しいものでは無い。
しかし、だからと言って、見慣れるということはないのだ。
(仕事が終わったら、一回吐こう)
例え喉に迫り上がるものがあろうと、仕事なので、目を逸らすことは許されない。
ブルーな気分をなんとか割り切って、遠山は現場の状況を探る作業に戻った。
死因は、胸を刺されたことによる出血性ショック。
凶器は彼女の家にあった包丁である。
死亡推定時刻は昨晩の23時ごろだ。
血痕や刺し方からして、自殺の可能性は低く、今まで同様侵入者の痕跡も、抵抗した形跡もない。
……不意打ちでは難しい、正面から胸をひと突きされているにも関わらず、だ。
凄惨な現場に反し、被害者の穏やかな表情に、遠山は複雑な感情を抱く。
(今まで、この事件の被害者は、皆共通して自殺志願者だった。
……おそらく、彼女も)
第一発見者である神生直からは、本人の気が動転しているのもあって、まだ簡単な聴き取りしかできていない。
それでもひとつ、気になることを話していた。
____『気になることって言えば……、アイツ最近〝もうひとりの自分〟がどうとか言って、変に機嫌よかったけど』____
____この事件は、奇妙な証言が相次いだことで、怪異による事件だと見なされた。
それは、
〝被害者たちは【もうひとりの自分】を渇望するような言動を繰り返していた〟
〝ある都市伝説に傾倒していた〟
というものも有れば、
実際に
〝被害者の【ニセモノ】を見た〟
という話もあった。
二重存在に望まれて殺される。
もし、その結果がこの事件ならば。
要因となった怪異として、遠山でもひとつ、候補を挙げることができた。
____それは、証言内にも登場した怪異。
【ドッペルゲンガー】
鉢合わせれば殺されてしまうという、二重存在の怪異現象である。
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