似ていない兄弟

3

「伊沢さん、遠山です」




 ここは、メゾン・奇々怪々404号室前。

 あの変人専門家の自宅兼事務所である。


 最初はあれほど緊張していた遠山も、もう慣れたもので、チャイムを鳴らす指が震えることもない。


 しばらくしてから、ほんの隙間程に、ドアが開いた。

 どうやら、鍵は開けたが、ドアチェーンはかけたままらしい。


 テンションの低い、ボソボソとした声がする。




「……急に話しかけられると」


「……驚きのあまり、キョドる」


「『2人組作ってー』は」


「……死の呪文」


「……」



 頑なだった扉が大きく開かれる。

 中から機嫌よく伊沢が飛び出してきた。


 ……うっかり前に立ってた遠山は、顔を強かにぶつけたが、伊沢という男がそれを気にするはずもない。


 例え、遠山が抗議の視線を向けようが、「扉はゆっくり開けてください」と言おうが、「メンゴ!」の一言で済ませるひとだ。



「ようこそー!

 同志遠山くーん!!


 よしよし!今日も陰気ッスね!

 安心したッス!」


「……この合言葉やめませんか?

 こんなお互いの精神を削るような」


「あるあるを言わせれば、大体同志か判別できる……。


 これ、ノーベル賞並みの発見だと思うんスよねぇ」


「つまり、変える気はないんですね」




 ____この程度のボケはツッコんだら負けであり、自分の身が持たない。



 彼が、伊沢と関わって学んだことは、何も怪異捜査のことだけではないのだ。



 それに、遠山には別のところで懸念があった。


 今回、伊沢のもとを訪れたのは、彼だけではない。


 もうひとりの訪問者は、彼らの様子に、笑いを堪えるように口元を押さえていた。


 ぷっ、と噴き出す音に、ゴーイングマイウェイを貫いていた伊沢も、ようやく、同伴者の存在に目を向けた。



「ははっ、本当に面白い人なんですね。


 みんなが言っていた通りだ」



 ……一言で述べるなら、快活な印象の、爽やか美丈夫。


 笑う様子もなんだか様になっており、もしこの世界が少女漫画だったら、間違いなくバックに花を背負っていただろう。


 よくよく見れば、背格好や基本的な顔立ちはなのだが、与える印象がまるで違う。


 その為、伊沢もこの時はそれに気づくことが出来なかった。


 彼には、相手はただ、キラキラを背負うにしか見えていない。


 当然、彼はこう叫んだ。



「……タチサレェェェエエエエェ!!!」





 ……この後、伊沢の説得に、30分ほど費やしたという。

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