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ピンポーン
「おーい、みく?
ねてんのかぁー?」
インターホンを鳴らしても、返事がない。
一応、男はドア越しに声をかけるが、なんのアクションも起きない。
(またかよ……)
この部屋の主である
少し、精神的に不安定なところがあり、今日のように、デート当日にドタキャンということも、珍しくはない。
ただ、厄介なのは、これを放っておくと、彼女が拗ねてしまって、余計面倒な事態になるということだ。
慣れてはいるものの、神生は、やれやれと呆れた様子だ。
「しょうがねぇなぁ……」
合鍵によって、あっさり開いた先には、ゴミに埋もれた部屋の姿があった。
予想はしていたが、流石に神生も、中に入るのを躊躇ってしまう。
以前、異臭がすると、隣の住人からしこたま怒られたことを、彼女はもう忘れているらしい。
(また、掃除しねぇとじゃん)
今日何度目かの溜息を吐くと、彼は床の見えるところを探して、恐る恐る部屋にあがった。
……この時、彼は妙に心がざわめくのを感じた。
特に根拠もないそれを、気の所為だと切り捨てて、居室の方を目指す。
「みくー?」
元々、狭いワンルームの一室。
少し進めば、部屋の全容はすぐに明らかになった。
「ヒッ……」
予想外の光景に、声にならない音が、勝手に口から漏れていった。
どうせ、いつものように、ベッドの上でこんもり山を作っているのだろう。
日常を信じて一切疑っていなかった神生を、目の前の惨状は、あっさり裏切った。
彼女は、桜井みくは、至って穏やかな表情で、眠っていた。
____胸に深々と突き立てられた包丁で、永遠の眠りへと。
彼女の体から流れていったそれは、統一感のあったカーペットの色を、汚らしいものに変えていた。
生ゴミの臭いに紛れて、鼻につく錆びた鉄のような臭いが、生々しく、目の前のこれは現実で、本物の死体なのだと主張した。
「うっ、わぁぁあああああ!!!?」
男の悲鳴が、周囲に知らせる。
再びこの地で、事件が起こったということを。
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