2

 ピンポーン


 「おーい、みく?

 ねてんのかぁー?」



 インターホンを鳴らしても、返事がない。

 一応、男はドア越しに声をかけるが、なんのアクションも起きない。



(またかよ……)



 この部屋の主である桜井サクライみくは、彼____神生カミオスナオの恋人だ。


 少し、精神的に不安定なところがあり、今日のように、デート当日にドタキャンということも、珍しくはない。



 ただ、厄介なのは、これを放っておくと、彼女が拗ねてしまって、余計面倒な事態になるということだ。



 慣れてはいるものの、神生は、やれやれと呆れた様子だ。



「しょうがねぇなぁ……」



 合鍵によって、あっさり開いた先には、ゴミに埋もれた部屋の姿があった。


 予想はしていたが、流石に神生も、中に入るのを躊躇ってしまう。


 以前、異臭がすると、隣の住人からしこたま怒られたことを、彼女はもう忘れているらしい。



(また、掃除しねぇとじゃん)



 今日何度目かの溜息を吐くと、彼は床の見えるところを探して、恐る恐る部屋にあがった。



 ……この時、彼は妙に心がざわめくのを感じた。



 特に根拠もないそれを、気の所為だと切り捨てて、居室の方を目指す。



「みくー?」




 元々、狭いワンルームの一室。



 少し進めば、部屋の全容はすぐに明らかになった。





「ヒッ……」



 予想外の光景に、声にならない音が、勝手に口から漏れていった。


 どうせ、いつものように、ベッドの上でこんもり山を作っているのだろう。


 日常を信じて一切疑っていなかった神生を、目の前の惨状は、あっさり裏切った。






 彼女は、桜井みくは、至って穏やかな表情で、眠っていた。





 ____胸に深々と突き立てられた包丁で、永遠の眠りへと。





 彼女の体から流れていったそれは、統一感のあったカーペットの色を、汚らしいものに変えていた。



 生ゴミの臭いに紛れて、鼻につく錆びた鉄のような臭いが、生々しく、目の前のこれは現実で、本物の死体なのだと主張した。




「うっ、わぁぁあああああ!!!?」




 男の悲鳴が、周囲に知らせる。



 再びこの地で、事件が起こったということを。


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