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「あー……。


 体の節々が痛いッス…。

 筋肉まで、悲鳴をあげてるッス」


「……本当に、今日出かけて、大丈夫だったんですか?」



 筋肉痛に涙声になっている相手を、遠山が不安げに見守る。

 伊沢は、普通に歩くと痛むと言って、先ほどから奇抜な歩き方をしていた。



「だって、遠山くんが如月ラーメン食べたことないって言うからぁ。


 あそこの煮卵を食べたことないなんて、人生損してるッスよ!」


「そこは、麺とかじゃないんですか?」


「煮卵がメイン、他はオマケッス」



 相変わらずの不思議発言に、遠山も変わらず真面目に反応する。


「はじめての見方ですね」






 あの後、無事待機メンバーに回収されたふたりだったが、遠山は満身創痍、伊沢は筋肉痛で中々動けなかった。



 そのうち、遠山は【目玉】こそ無くなっていたが、怪力相手に揉み合ったことによる、打撲が酷かった。


 警察医からくだった診断は全知1週間。


 3日後には仕事に復帰していたが、まだ体のあちこちが、湿布臭い状態だ。



 伊沢の筋肉痛は、不可思議な力の代償____と、急激な運動によるものだった。


 加えて、見た目こそ無傷だったが、身長も体重も遥かに大きい遠山を受け止めた時に、肋骨にヒビも入っていた。


 ……今日は捜査協力のお礼で伊沢の元に訪れた遠山だが、彼的にはそのお詫びも兼ねていたりする。


 『如月ラーメン食べたい』とぐずった伊沢に頷き、デザートのプリンまで奢ったのは、そういうことである。


 ちなみに、あの力について本人に問うと、


『オレが知りたいッス』


 と、何故か拗ねてしまったので、遠山は未だにあの夜のことについては、分からないことだらけだった。



 市内の方は、怪異もしっかりと消滅が確認され、被害者たちの症状も同時に消え去った。

 今度はそれぞれが法律のもとで然るべき罰を受けることになるだろうが____。





(……目玉が生えるよりは、マシだな)


 あの夜の不快感を思い出して、遠山は苦笑した。



「でも、本当に奢って貰っちゃって、良かったんスか?」


「はい。

 お世話になったので、このくらいは」


「そんなことは……あるッスけど。

 まぁ、報酬は貰ってるし、そんな気にしなくても〜」


「……真咲みどりに、俺名義で手紙を出したの、伊沢さんですよね?」


「……なんのことッスか?」



 すっとぼける伊沢に、遠山は続ける。



「伊沢さんは、お見舞い品に必ずサガミドロップスの缶を差し入れると、聞いたことがあったので」



 かつての遠山も、事件によって入院した際に、伊沢から貰った。


 病室にいつのまにか置いてあったそれを見て、首を傾げる少年の遠山に、こっそりそこの看護師が教えてくれたのだった。



「……あー」


 ポリポリと伊沢が頬をかく。




「もしかして、遠山くんも、過去に俺が助けたクチ?」



「……まぁ……」



(……やっぱり覚えてもらえていなかったか)


 あからさまに覚えがなさそうな反応だ。

 遠山も、わかってはいたが、少し残念な気持ちになる。


(色んな人を助けている人だからな……)




「あぁ、違う違う」

 と、伊沢は片手を振った。



「忘れてたわけじゃ……。


 いや忘れてはいるんスかね??」


「……どうしたんですか?」



 珍しく困ったような様子に、遠山が訝しげに反応する。


 「えーと」

 と、ようやく口を開いた赤毛の彼は、ここで1番の爆弾を投下した。




「オレ、昔の事件の後遺症で、記憶喪失だって言ったら、信じる……?」

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