閉幕

25

 みどりにとって、久しぶりの登校は、憂鬱なものだった。


 みどりを腫物と見たクラスメートたちは、彼から距離をとることを選んでいた。


 感じの悪い空気は、彼にとって、なんだか息苦しい。



(まぁ、いいや。


 ……何かされる訳でもないし)



 寂しさは感じるが、平和ではある。

 誰かが、彼を脅かすことは、もうないからだ。


 井尻たちは、別室指導を受けることになり、接触はほぼない。

 担任は、みどりが復帰をする頃には、クラスの担当を外されていた。


 もう、制服を汚れることも、金をせびられることも、暴言や暴力を浴びることもない。


 多少居心地は悪くとも、現状はずっとマシだった。




(……今日の夜ご飯は、楽しみだな)



 今日は、彼の母親がシチューを作ってくれる。

 普段は忙しい父親も、早く帰ってくる。



(……謝れて、よかったな)



 罪にはそれを上回る誠実を。


 とりあえず、ご褒美を心置きなく食べられるように、今日を乗り切ろうと考えた。




「みどりくん!」



 みどりが、声の方を振り返ると、白石が立っていた。

 周りの反応を気にする様子はない。


 白石はただ、大切な友達と、会話を続ける。



「つぎ、移動教室だから、一緒に行きませんか?」


「……いいの?」


「はい、勿論です」


「……うん、行くよ。

 白石さん、ありがとう」


「ありがとうは、こちらこそ、なんですよ?」



 屈託なく笑う彼女に、みどりもつられて、微笑んだ。

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