怪異討伐

23

 夜の寝静まった、閑静な住宅街。


 その中に建つアパートの一室に、まさに不審者が侵入しようとしていた。


 不用心にも、鍵が空いていた為、男はとくに苦労する様子もなく忍び込む。



 室内は、よく分からない書類や本で散らかっていた。



「……」



 男はひと通り部屋を物色している様子だったが、目を惹くところでもあったのだろうか?


 その中でいくつかのファイルに手をつけると、持ってきていたトートバッグに仕舞い込んだ。



 まだ、慣れていない反抗だったのか、住人のことを失念して、長居してしまったらしい。



 「誰だ……?」



 ギシギシと、床が軋む。

 男は慌てて部屋を飛び出して行った。


 泥棒としては、顔を見られる訳にはいかないだろう。

 些細な特徴を捉えられるのも、逮捕のリスクが跳ね上がる。



 男は、より人気のないところを目指して、素早く駆けていった。



 やがて、男は、遊具の無い、芝生の広がる公園にたどり着いた。


 街灯はない訳ではないが、本数が少ない。


 その為、園内は薄暗い闇に支配されていた。



「……?」



 肩で息をしていた男だったが、ふと面をあげて、驚いた。


 男は、確かに人影のないことを確認して、公園に逃げ込んだ。



 ……ならば、何故。



 何故、目の前に、人が居る?






『オマエ、盗んだな?』






 随分と、甲高い声だ。


 やけに耳障りに感じるその女の声に、男は思わず、顔を顰めた。





『盗んだ。


 見ていたぞ、盗んだな!!』




 女は男の前に手をかざす。




 その瞬間、猛烈な痛みと痒みが、男を襲った。



 ぼこぼこと、肌の内側で何かが隆起する。

 プツリと、あちらこちらで、皮膚が裂けた。


 掻きむしりたい衝動を抑えて、男は〝ソレ〟を確認する。




 本来ならあるはずのない、【目】があった。




『オマエは、私と同類だ。

 ならば、同じ目にあわせてやるのが、自然なこと……』





 着物の袖からちらりと見えた、女の腕、かざされた掌にも、びっちりと目で覆われていた。



『精々、苦しむが良い』



 嘲るような高笑いをした後、女はかざしていた手をおろそうとした。








 ……その細い手首を、男は強い力で掴んだ。




「……ようやく捕まえたぞ。


 怪異【百々目鬼ドドメキ】」

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