自己嫌悪の夜長、奇人の早朝

12


 遠山は、きっと夢を見ていたのだ。




 軽い報告を済ませ、直帰を許された彼の心を占めたのは、苛立ちだった。


 伊沢に……、それ以上に、仕事と私情の分別もつけられなかった自分に。



 勝手で独りよがりなイメージを、今まで伊沢に押し付け続けていた自分に、一種の失望を感じていた。



(最悪だ……。)



 八つ当たりのように、前髪の辺りをぐりぐりと掻き、乱していく。



(俺は、伊沢さんを知らないじゃないか。

 分かっているつもりで、分かっていなかった)



 体重の移動に合わせて、軋んだベッドが音を鳴らす。

 視界の端でドロップ缶が目に入る。

 きちんと整理整頓されたデスクに、不似合いに置かれたそれは、過去、伊沢がくれたものだ。彼が唯一知る、伊沢の象徴だ。


 逆に言えば、遠山はそれしか知らない。そこから広げたものは、単なる妄想に過ぎない。


(単純に俺個人の意思でも、賛同できないのは変わりない。伊沢さんに協力を要請したということは、課も同じ考えのはずだ。)



 しかし、あの時の遠山は、勝手に伊沢に裏切られたと激昂しているところが大きかった。



 それは、仕事としても、人間としても、やってはいけなかったように、彼は思う。




「……譲れないのは変わりない」



(けれど、非がある部分は認めるべきだよな……)



 ベッドから起き上がると、遠山は、文房具を取り出した。



 冬の夜は寒い。

 明日の朝も、冷えるだろう。



 彼はまだ、眠れそうにない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る