はじまりは、一件の通報から

3

 N国における、報告のある年間事件数のうち、約10%は怪異が原因である。


 その中でも、I県にある囘木カイキ市は、この国においても、三本の指に入る程に怪異事件の報告が飛び抜けて多い。



 さて、そんな訳ありの地で、今日も奔走するうちのひとり。

 新人捜査官、遠山トオヤマ 或斗アルトは困惑していた。

 


 一見すると、表情は無く、鋭い目つきのせいで、相手を睨みつけているようにさえ感じる。


 ……しかし、もし、彼の表情がはたらき者であったのなら。

 ……驚きのあまり、涙どころか目玉がこぼれ落ちていただろう。



 彼の前方では、彼の此度の目的であり、今、彼を困惑させている者が居た。

 事件解決の頼みにと、訪ねた相手は、いまだに〝荒ぶる鷹のポーズ〟を崩さない。


 どうしようもなくなった遠山はおもむろに天を仰いだ。


 ……空が綺麗だ。



 再び奇声をあげはじめた相手に、少し心がくじけそうだった。


 

 なぜ、彼がこの奇行人……、伊沢イザワ 深泉シンセンを訪ねたのか。


 話は、少し遡る。

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