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「みどり……、大丈夫? 

 ……少しは落ち着いた? 」

 

 ひかえめなノックとともに、母親のやさしい声が、静まりかえった部屋に響く。

 それすらもひどく、煩わしく感じてしまったのを、少年は恥じた。


 それでも、返事は出来そうにない。


 

(今、何時だろう? )

 


 わずかにもれる、カーテンごしの光でさえも、今の身体は過敏に反応してしまう。

 少年が引き篭もった時、早々に窓を塞いでしまったのは、そういう理由だ。


 お陰で、時間感覚は見事に狂ってしまった。


 スマートフォンでも見れば、解決はするのであろう。


 しかし…。

 精神的な疲れで億劫だったのもあるが、不用意に目を開けることは避けたかった。


 

「ねぇ、お腹……、空いたんじゃない?みどりのね、好きなシチューを作ったの。お父さんもね、今日は早く帰ってきてるのよ。だから……」



 みどり少年は、いっそう両耳を強く塞いだ。先に続く言葉が、分かっていたからだ。


 部屋の外になんか、出れない。

 出れるはずがないじゃないか。

 

 嗚咽しながら、ヒステリーに母親を追い返した。

 少年には確信があった。


 ……瞼という薄皮を隔てて、今もアレと【目】があっている。

 

(どうして。

 どうして、こんなことになったんだろう)

 

 そんなこと、考えるまでもない。【あの女】も、はっきりと言っていたことだ。

 


 ——『お前は、私と同類だ。ならば、同じ目にあわせてやるのが、自然なこと』——

 



 後悔しても、もう、遅い。


 それは数日前。

 思えば自業自得の出来事であった。

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