第2話 メロンソーダ!

「ここがそのカフェですか」

「はい。クウェス・コンクラーウェといいます。少し遠くてすみません」

「いえ、神津近くであれば行くこともあるかもしれませんが、電車に乗り継いでまでは来ませんので」

 神津駅から急行に乗って20分で辿りつく辻切中央つじきちゅうおう駅から約10分程歩いたところにあるお洒落カフェ。

 やや高級ではあるけれど、アイリスと同じく駅から少し離れた市街にあるカフェだ。官庁街近くにあるアイリスとは、かけ離れたカフェでもない。だから参考になると思う。

 オープンテラスに続くエントランスを潜ればそのままカウンターに繋がり、そこで注文をして奥のカフェスペースに抜けていく。『都市の中にある緑』がコンセプトの広い店内は自然採光に溢れ、それを遮らないようラティスで自然に区切られてそこに緑がからまっている。まるで森の中にいる感じ。

 カフェ・アイリスもウッディな感じではあるけれど、あちらは木造の暖かい木でできた家っていう感じだから少し違うかな。開放感というよりは御籠もり感というか。


 マスターはメロンソーダを頼み、私はスペシャルメロンソーダを頼んだ。

 マスターはお金を払おうとしたけれど、私の中ではこれはお仕事のお手伝いではなくマスターとのデートなのでお金は自分で払うのだ! 対等な感じで。

 スペシャルメロンソーダは1400円するから結構お財布にもダメージなのだけれども、推しとは貢ぐためにある。

「スペシャル・メロンソーダはお席にお持ちいたします」

 そうだった。スペシャルは時間がかかるのだ。マスターだけメロンソーダを受け取って席につく。同時性が欠落してしまってなんだか少し申し訳ない。

 それにしても渋いマスターがメロンソーダを飲んでいるのはなんだかグっとくる。

「濃いめのメロンソーダのシロップに少しだけジンジャーが混ざっているのですね」

「美味しいですか?」

「ええ。これは面白い発見です」

 マスターの柔らかな微笑みに恐縮する。

 すいません、尖ったのしか頼んでなくて、普通のは見落としていました。

 そうこうしている間に店員がスペシャルメロンソーダを掲げてやってくる。

 マスターは驚愕に口をぽかんとあける。いつもと違う髭角度、萌ゆ。


 ここのメロンソーダはメロンソーダの名前を冠しているが実際はメロンパフェなのだ。

 クリームこそ入ってはいないけど、そこにはメロンの果肉の16分の1切りがドンと刺さり、3種類くらいのメロンが球や橋やハートの形にカットされたものがメロンソーダの中におもちゃのように浮かび、そのソーダを挟んだ下にはメロンジュレ、ソーダの上にはメロンソルベが浮かんでいる。まさにメロンづくしの全部のせ! この中でどれか流用できるようなポイントがあればいいと思ったのだけど。

 けれどもマスターの驚きに固まるぽかんとした顔を見ていて不安になった。そして次第に私の中の何かがしょぼしょぼと沈んでいく。

 ……よくかんがえるとそもそもメロンに特化するのはひょっとして……違ったのだろうか。そうだよね、費用対効果を考えればカフェ・アイリスでこんな豪華なパフェは似合わないし。

 なんだかせっかく遠出してもらったのに申し訳ないような、気がして、推しとデートしたかったし、ええと。

 恐る恐る顔を上げるとマスターはふっと微笑んだ。

「ありがとうございます。私ではこのような発想は浮かびませんでした」

「あの、なんていうか、私はその、マスターのお役にたちたくて」

「ええ。とても勉強になりました。ありがとうございます吉岡様。けれどもアイリスのメロンソーダはベーシックなものが合っているのかなと思い直しました。ここのメロンソーダもとても美味しゅうございますが、アイリスはここほどお洒落ではありませんので」

 確かにジンジャー風味のメロンソーダなんて昭和の香り漂うアイリスにはそぐわなかったかも。失敗した。申し訳ない。くぅ。


「吉岡様。本日はお誘いいただきまして誠にありがとうございました。吉岡様のメロンソーダを拝見して、ミニプリンアラモードに季節ごとに果物のジュレを添えるのも良いかと思いまして」

「プリン、アラモード」

「はい。あれもそれほど数は出ないので果物の廃棄が出てしまい、少々残念に思っていたところです」

 アイリスのミニプリンアラモードはプリンを中心に生クリームとさまざまな果物がちりばめられて。3、4種類はフレッシュフルーツが入っている。毎日用意しているのだろうからコスパはよくなさそうだ。

「あのメニューも一度はやめようか悩んだのですが、やはりお恥ずかしながら流行ア・ラ・モードというものはいつまでも追いたいなと思っておりますので」

 少し気恥ずかしそうなマスターにキュン死する! ぐふふ。そういえばマスターはこないだもラテアートにトライしていた。

 そして次にアイリスに行ったとき、丸くくり抜かれたメロンと生クリームとジュレが綺麗にトッピングされていて、真ん中にプリンが載っていた。

 食べる前から美味しいことが約束されている。

「どうでしょうか」

「すごくオシャレでアラモードな感じです!」


Fin.

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