ボマーという男は
「きひひひ、本当にいい奴だな。本当に甘ったるい奴で嫌いになる。こんなに嫌っている俺にまさかこんな高い酒を出すなんて狂ってるよガラリア!」
「嬉しいのはわかるが今は真夜中で普通の人は眠る時間だ。静かに飲んでくれ。」
虫の鳴き声と犬の遠吠えがこだまする深夜の時間。プルプルと俺のそばから離れない妖精たちを落ち着かせながら目の前にいる酒飲みのボマーを見る。
スキンヘッドで鋭い目。そしてあの日つけた焼き傷が額に深く残っていた。酒を飲んでいるのか昔の苦い記憶を呼び覚ます。
「なんだなんだガラリア。俺の顔をまじまじと見てまさかこの傷に罪悪感を抱えているのか。きひひひ馬鹿な奴だなもっと罪悪感を抱え込んめよ。そして俺の目の前で首を掻っ切れガラリア!」
「だからそんな大きい声で喚くな。何時だと思っているんだ。」
「たった二回だけしか言ってないだろ。」「二回もだ。」
っと一通りの通過儀礼を行った後にガラリアはボマーに真剣な目を向ける。
「何の用だボマー。ただ懐かしさだけで俺に会おうと思ったわけではないだろう。何か伝えたいことでもあるのか」
ガラリアとボマーの間に鋭く懐かしい時間が訪れる。きひひひと笑いながらボマーは懐からあるものを取り出す。
「そうだよ。正解だ。俺が普通にお前に会いたいときなんて一秒たりともあったりしないからない。」と馬鹿にした態度を取りながら懐から取り出したであろうあるものを床に広げた。それは新聞紙だった。
「深夜遅くにお前に会いに来たのは訳がある。お前はこの世界に戻った後、仲間たちにあったか?」
仲間たちその言葉を聞くだけで懐かしさと共に苦い記憶が喉奥から湧き出す。決して酒を飲みすぎて吐きそうというわけではないし、嫌な記憶でもない。ただ辛い日を過ごした記憶だ。
「仲間か…。いや会ってないな、ここに住んでいる奴なんていなかったからな。」
「そうか」とボマーは酒を一口飲んだ後に広げた新聞紙のある所に指をさす。その指をさされたある場所とは「鐘の音が鳴り響く怪奇現象!?。」という見出しの部分だった。
「お前は、あれを使ってないよな。それか使わせてないよな。」
あれ、ボマーの口からまた懐かしい言葉が出てくる。だが「あれは、もうこの世にはない。俺が壊したんだからな。使うもないにもないものは使えないし、使わせない。」一瞬の緊張が流れた後にボマーは真剣な顔を緩ませ笑う。
「きひひひ、そうかウソをついてないようで俺は安心したよ。もしもあれつまり『願いを叶える鐘』を使ってたら、俺はお前を殺すところだったからな。」
「願いを叶える鐘。」その名を聞いただけで身の毛がよだつ。あの世界での最後の出来事であり、最後の英雄譚。
ふと、記憶の片隅で星空とともに彼女の顔が思い浮かべる。それを払いのけるようにガラリアは酒を飲む。
「その言葉を聞いて満足したし、そして喉も潤った。そういうわけで俺は帰る。」
そう言ってボマーは立ち上がる。酒瓶を六本も飲み干したとは傍から感じさせない足取りで玄関に向かう。ガラリアはうとうとと寝ている妖精たちに毛布を掛けながら見送るためにともに玄関に向かった。
外はもう晴れていて星空が見える。突き抜けるような冷たい風と共に世界はきれいに踊っていた。
「じゃあ、帰るわ。俺はお前の不幸を願っているぞ。それじゃあ、もう決して合わないことを願って。さようなら。」
いつも通りのガラリア嫌いを発動しながらボマーは家から離れようとする。しかし一旦止まり何を思ったのか俺の方へ顔を向けた。
「なあ、ガラリア。お前はアリスのこと覚えているか。」
静寂と風が巻き上がる。アリス。その言葉がまさかあいつの口から飛び出すなんて…いや不思議じゃないな。ガラリアは一度の沈黙とともに口を開く。
「…覚えているよ。忘れられるわけがない。あんなに俺を嫌ってる奴なんかを忘れるのが無理って話だ。」
「…そうか。だがガラリアあいつは」
「もう、そろそろ空港に向かわないと帰れなくなるぞ。ここで一夜を共にしたいのか。」
何かを言いかけたボマーをガラリアは止める。聞きたくないし、言わせたくない。そうガラリアは考えていた。
「それは嫌だな。そうだなさっきの話は忘れてくれ。それじゃあ、またな。」
ボマーは、ガラリアの気持ちを汲み取り何事もなかったかのように出ていく。そんなボマーの後ろ姿を見て今度はガラリアが足を止めさせた。
「ところで最後に一つだけ聞きたいことがある。ボマー。」
「何だ。俺は暇じゃないんだぞ。」
振り返ったボマーは寒そうにしていた。すぐさま帰してやりたかったがそれ以上にガラリアにとって気になっていたことがあった。
「仕事は何をしているんだ。」
「きひひひ、何だそのことか。そんなの当たり前に自由を愛する。無職だ。」
「そうかよ。頑張って就活しろよ。」
「ほざけ。」とボマーは笑いながら去っていく。今日は昔のことをいろいろと思い出した。楽しい思い出悲しい思い出そして胸糞悪い思い出。本当にいろいろと思い出した。そんなちょっと嬉しさが勝つそんな日だった。
アラームがけたたましく鳴る。アラームと音共に妖精のサリーがいつも通りのうるさい声で起こす。「おい、起きろガラリア!」
本当にうるさい。眠い目をこすりながらガラリアはソファーから起き上がった。ボマーと別れた後にそういえばしこたま酒を飲んだんだっけな。無造作に置かれている酒瓶を見つめながら首を鳴らし台所に向かった。
「あ、おはようございます。今日の朝ご飯はなんとトーストですよ。」と妖精のリリーが嬉しそうに話しながら魔法でトーストをお皿の上に乗せる。香ばしい匂いだが食欲がわかない。
いつも通り無理に食って仕事に出かけよう。そう思った瞬間にスマホの呼び鈴が鳴る。うるさいと感じながらガラリアはスマホを取った。
「もしもし。誰ですか?」
「俺だよ。俺。お前がこの世で一番嫌悪しているであろう無職のボマーだ。」
「嫌悪はしていないよ。ってボマーかよ。いつの間に電話番号を登録したんだ。それに」
「まてまて、落ち着けいろいろ聞きたいのはわからないが少し落ち着いてくれ。…落ち着いたか、落ち着いたならテレビを開け。そしたら俺が伝えたいこともわかる。」
テレビを?起きたばっかの回らない頭を無理やり動かしながらテレビを開く。するとそこには見知った顔と名前が映し出されていた。
「革命家ベルテンアガルダ交易空港を占拠。」そうこの世で知りたくなかった最悪で目が覚めるニュースが映し出されていた。
世界を救ったから…仕事をください。 赤青黄 @kakikuke098
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