第23話

 一心が浅草に帰ってからひと月が過ぎた。警部から捜査状況の報告はない。おそらくジュースの購入者の捜索や、下藤宅と剣が崎保養所間を下藤一家の誰かが通っていないかを調べるのに時間が掛かってるんだろうと思っていた。

 そんな時、警部から一つ報告があった。ストローの袋を切った刃物は、市販のカッターなどではなく相当切れ味の良い刃物だという事が分かったと言う。例えば、メスと言われ、やはりなと納得できた。いよいよ下藤爽太の犯行の線が濃くなってきた。

 その数日後、警部が事務所にやってきた。手土産に浅草寺仲見世通りにある老舗の、よもぎ、みたらし、ゴマなどの串団子を家族分持って来てくれた。

「こんにちわ~」警部の声と、だんごの匂いに誘われて家族がぞろぞろと事務所の奥から出て行く。それぞれ、挨拶をし、お礼を言ってソファに掛け、静がお茶を淹れてテーブルに並べる。

「警部、こんちわ。何か進展有ったか?」最後に出た一心が声を掛けると、警部は頷いて「困った、いよいよ困った」と頭を抱えている。

「どうした?」一心が歯で串から団子を引き抜きながら問う。

「剣が崎保養所へ行く道の監視カメラが、レンタカーに乗っている下藤爽太を見つけたんだ。玄武勇殺害の3日前の朝6時過ぎ、玄武勇が下藤ひとみに会った1週間後。だけど、下藤宅と剣が崎温泉の間と、剣が崎の温泉と保養所の間の監視カメラには誰も写っていなかった」

「ってことは、やはり下藤爽太が田浦鴻明を通じて玄武勇に毒を飲ませたってことになるな。玄武は田浦の所へ2回行ってるんだよな」一心にもこの後どう持って行ったら良いのか分からなかった。

「警部、困ったな。下藤爽太が玄武勇を殺害する理由はどう考えてもあれしかないもんな」と口を突いて出た。

 話をしている最中に盛岡の佐藤刑事から丘頭警部に電話が入った。席を立って暫く話していた警部が戻ってきて「一心、下藤爽太がスーパーで野菜ジュースを三つ買うところを監視カメラが捉えていたって。これで確定だわね」警部は犯人がはっきりしたのに全く嬉しそうではない。そして「県警も解決済み事件は捜査の前提条件であって、対象じゃない、と佐藤も言われたそうよ」そう言って顔を曇らせる。

「こっちは全部状況証拠だよな。下藤爽太が毒を抽出しストローに付着させたこと、それにトリカブトの入手先が分かっていないこと、どう言って田浦に渡し、田浦がどう言って玄武に渡したのか?不明点はまだある」一心がそう言うと「そうねまだまだね。それに田浦は共犯者になるってことよね・・・そうすると下藤と田浦の結びつきが問題になるわねぇ」と返す。

「実の親と育ての親が子供のために共犯っと言うなら、分かりやすいんだけどなぁ」一心も腕組みをし考え込む。

 

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