第17話
*
あの日、中学生の私は3時に学校を出て家で留守番をしていた。母は午後5時半に、父は午後8時にいつも帰ってくる。
5時頃インターホンを鳴らして見知らぬ女の人が訪ねてきた。ドアを開けると真っ赤なコートにサングラスをかけ濃い色のロングスカート、髪は肩まで流していた。
「どちら様ですか?」と訊くと「お母さんは?」と質問を返してきた。
「まだ仕事から戻ってません」と言ってるのに、ずかずかと家の中に上がり込んでくる。
「困ります」と言っても「良いの、お母さんの友達だから」と言ってリビングまで入ってきた。
「お名前は?」と訊いても「お母さんの友達」としか言わない。
私は変な人だと思って「警察に電話します」そう言って携帯で本当に警察に電話しようとしたら、「止めなさいよ!良いの?あんたがお父さんの娘でないことを世間に知られても!」と怒鳴ったので、びっくりして電話を止めた。
「誰?どうしてそんな事言うの?」訊くと「お母さんに百万円用意しておいてって言って」そう言って帰ろうとする。
私とお母さんの秘密、お父さんには絶対に知られたくない。家がバラバラになっちゃうと恐怖し戦慄した。
それでその女の腕を掴んで「誰なの?どうしてそんなこと言うのよ!」と迫ると、突き飛ばされた。
強かに壁に頭をぶつけ、悲鳴を上げている隙に女が玄関を出て行ってしまった。
私は拙いと思って、夢中で台所の包丁を手に持ってあとを追いかけた。何としても秘密を守らなければと思い必死だった。
丁度、地下道のとこで追いついて、何かを叫んで女のお腹を刺してしまった。
手が、足が、身体が震えた。
急いで、家まで走った。
ドアを閉めて鍵を掛けた。コップで水を一気に飲んだ。その後はどうしていいのか分からず、ただ茶の間で包丁を握ったまま震えていた。しゃがみこんで泣いた。
そのうち、玄関でガチャガチャいう音がして、「ただいまあ」とお母さんが帰ってきた。
私は包丁を捨て、お母さんにに抱きつきたかったが体がいう事をきかなかった。
泣いているのが精一杯で言葉を出せなかった。
おかあさんは、血の付いた包丁を見つけ「ほのか、どうしたの?」と言って私の肩を掴んで揺すった。
何も言わず震え泣いている私に繰り返し「どうしたの?」と訊くお母さん。
そして、「ほのか!ちゃんと言いなさい!」と叫んで私の頬を叩いた。
その痛さで我に返って、女の人が来たところから、刺して逃げ帰るまでを細かく話した。
それを聞いたお母さんは「そう、ごめんなさいね。お母さんのせいであんたにそんな事させてしまった」そう言ってお母さんは私を抱きしめてくれた。そして二人で大泣きした。
暫くして、お母さんが「あんた着替えてお風呂入って、血が付いてたら困るから、ね」と言ったのでその通りにした。
風呂の中でも泣きながら手とか一生懸命洗って、一時間以上入って、上がるとお母さんがいなかった。包丁も無くなっていて、床に付いてた血も綺麗に拭き取られていた。
髪の毛を乾かしているとお母さんが帰ってきた。
「どこ行ってきたの?」って訊いたら、お母さんが「あんたは心配しなくていいから。あなたの本当のお父さんが包丁を持って行った。自分の責任だから自分が決着つけるから、ほのかは幸せになって欲しい、そう言い残して帰った」と話してから、「もうすぐ、お父さんが帰ってくるから、今日は早くご飯食べちゃって部屋に行ってなさい」そう言うので、その通りにした。
次の日から、びくびくしながら学校へ行ったり友達と話したりしたけど、私を捕まえようとする人はいなかった。そんな日が何日も続いて、事件のことを忘れかけたころ、警察の人が来た。私しかいなくって、そう言ったら、両親の勤務先を訊かれて大学病院を教えたら帰って行った。
心臓が止まるかと思ったくらい怖かった。
それから数日して地下道で女の人が殺害された事件の犯人が逮捕された、とニュースが流れた。顔写真も出ていた。
もしかして、これが私の本当のお父さん?名前がお母さんから聞いていた名前と同じだった。
*
ピンポ~ンとインターホンの音で我に返った。主人が帰って来たのだ。
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