第9話
静を連れてその覚えのある闇金の事務所に向かった。
階段を上がり、事務所のドアを開くとゴロゴロしていた柄の悪そうなお兄さんたちが、一斉に俺を睨む。
「何か用か?」と若いあんちゃんが肩を揺らしながら俺に近づいて来る。
そこで、さっと静と体を入れ替える。
静を見た連中はいきなりぴしっと背筋を伸ばして、90度に身体を曲げ「姐さん、いらっしゃいませ!」と声を揃えて挨拶する。
この事務所の奴らも静のパンチをたらふく食べた連中だ。
「哀園るりさんのこと、教えて貰いにきやした。どなたはんかお願いしますわ」静がそう言っただけで、応接のソファに案内されコーヒーを出され、年配の偉そうな奴が対座した。
「姐さん、哀園るりについては、先日警察にお話ししたんですが?」奴が言うと「ほ~ほな、警察に言ったらうちには教えへん!と言うこってすか?」
静がそう言った途端、奴は血相を変えて、両手を左右に振って「い、いえ、いえ、違います。もう、警察からお聞きじゃないかと思っただけでして」と手をすり合わせて冷や汗を掻いている。
静が促すので、一心が質問する。
「大体は聞いたけど、男を騙して小金を取った、というとこまでな。まだ、その先、法に触れる部分でもあるだろう?」奴を睨むが、奴はこっちじゃなくて静の目の色がボクサー色に変わらないか気になって仕方がないようだ。
「静が大人しいうちに教えて下さいませんか?」一心は敢えて丁寧に話す。
「じゃあ、ここだけの話と言う事で、実は、それだけじゃ実入りが少ないんで、金を持ってそうな男の女関係を洗わせてたんです。それ以外でも強請りのネタになるようなことは何でも良かったんですが」奴は汗を拭きながら呟くように話す。
「じゃ、哀園るりが殺される前には強請りもやってたってことですか?」
「はい、るりは情報収集の方で、強請りは専らこちらがやってたんですが、るりも相手をみて自分でも強請りをやってたようでして」
「ほ~おたくは、それを見逃していた?」
「えぇ、結構色んな話を持ち込んでくるんで、大目にみてました」
「じゃあ、殺される前、何か言ってなかったか?金が入ったら借金返すとかなんとか?」
「え~うちの若いもんがそんな話を聞いたようです」
「過去に、ほんとに金を持ってきたことはあったのか?」
「えぇ、二、三度十万単位で返済がありました。だから、実際はうちにはもう借金は無かったんです」
「哀園るりが強請ったか、強請ろうとした相手知らんか?」
「いや~もう十年以上前の話なんで、姐さん申し訳ありません。ただ、隠し子がどうのと言ってましたねぇ」
「隠し子ねぇ・・・色々ありがとう、静、帰ろう」一心が言う。
「へぇ、えろーお邪魔しました。おおきに」静が腰をあげると、社員全員が直立不動から身体を90度に曲げて挨拶した。
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