第8話

 事件から二カ月が過ぎて漸く丘頭警部が、哀園るりの調査結果を持ってきた。

母親は哀園るりも勤めていたスナックの従業員、父親はそのスナックの雇われマスターだった。

生まれてすぐから保育所に入れられて育った。

両親とも夜の仕事で昼まで寝ているような暮らしぶりだった。

 小学校へ通うようになってもそれは変わらず、綺麗な服など着たことがない、それで随分虐められていたようだった。数少ない友人が、泣きながら公園のブランコに一人揺られているるりをよく見かけたようだ。

本人も特に頭が良かったわけでもなく、運動ができたわけでもなかったので、格好の標的になってしまったようだ、とその友人は話した。

 高校へ入ると親が離婚して母親と暮らしたが、金がないので母親の勤める店で年を誤魔化してバイトを始めた。酔っ払い相手は嫌だったが生活の為我慢していたようだ。学校では孤立していて唯一の話し相手だったクラスメイトには、夜のバイトの事を、毎日嫌で嫌でと言って涙を見せていたと話してくれた。

 そのうち情に絆されて店の客と仲良くなって、るりは恋人だと言っていたが、相手は遊びだったようで、妊娠すると下ろせと言って金だけを置いて姿を消した。母親に言うと残った金を寄越せと言い、10万円程の残りを渡すと母親は喜んだ。自分の身体を気遣ってはくれなかった。

それが、悲しくて、寂しくて、孤独感に泣いていた。騙した男にも、母親にも裏切られた気持ちを強く持ち、それからは、誰も信じなくなって、お金に執着するようになった、そんな風にスナックで一緒に働いていた女性が話してくれた。

 

 それがきっかけで、身体を金で売る様になっていった。まだ、未成年ではあったが見た目が良かったようで、一回数万円で一晩に数人に売れたようだ。

月に数十万円も稼ぐようになると、金使いもだんだん派手になっていった。

 そんな時、母親がもう一人で暮らせと言って、知らない男と家を出て行った。

るりは母親を母親とも思っていない積りだったようだが、いざ出ていかれると、悲しかったし、寂しかったようだった。母親にまた裏切られたような気持ちになり、その分一層派手な生活を送るようになっていった。

 そんな暮らしが10年余り続いたようだった。しかし、身体を売ると言っても30代になると、客は徐々に減りその分生活が苦しくなっていったが、派手な生活は止められず30代後半には借金をするようになっていった。

初めは、友人、そして知人、銀行、サラ金、しまいには闇金にまで手を出してしまう。

借金で借金を返済する生活も40代に入ると難しくなる。

 闇金の取り立ては生半可なものでは無かったようだ。闇金の事務所で裸にされ10人近く居る社員全員の相手をさせられたようだ、それがひと月分の利息だと言われた。

流石にこたえたらしい、「何でもするから、これだけは止めてくれ」事務所で泣き叫んだら、「じゃあ」と言って、男をだまして金を巻き上げる知恵を授けられた。

 そんな風に、聞き取りに走り回った刑事から報告を受けたと、警部が話してくれた。

 

 その話を聞いて一心は、その闇金に行こうと思った。やつらがそんな甘いことで許すはずはないし、哀園るりを手先に使えると思ったはずだ、そう確信した。

 

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