第7話

 一週間の旅を終え浅草に戻った一心は、東北の数々のお菓子の名品を子供たちやラーメン屋の十和ちゃんやら丘頭警部にまで届けて歩いた。

 ほっと落ち着く間もなく、丘頭警部が鑑識の報告を持って探偵事務所に顔を出した。

「静さんに指摘されたストローの内側から、トリカブトに含まれるアコニチンが検出されたわ。ストローのジャバラの部分に残っていたようよ。驚いたのは、田浦のいる剣が崎保養所の周りには、沢山のトリカブトが自然に群生していることが分かったのよ」

「そうすると、田浦の犯行として矛盾はないってことか?」一心は予想外だった、素人がトリカブトを食べたというなら分かるが、アコニチンを抽出して且つストローの内側に塗る、というのは病状の重い田浦には無理だと感じていたからだ。

「確かに田浦は製薬会社に籍を置いていたが、アコニチンの抽出ができるのか?会社へ行って確認してきてくれ。で、警察への指示書作ったから、佐藤刑事にも言ったけど、警部へもこれで色々指示していいか?」

頷く警部に「じゃ、頼むな」そう言って走り書きした指示書を渡す。

警部はそれを見てから「あと、哀園るり殺害現場付近に、加害者か被害者の関係する人や会社などがないかを調べるのはもう少し時間がかかるわ。居酒屋やじろべえやスナックスポットの客まで含めて洗ってるから、抜けはないはずよ。それと、田浦の退職後の銀行取引はこれ、哀園るりのほうはこれね」と言って銀行発行の取引明細票をテーブルに並べた。

「見る限りは、田浦に20万円の金を貸すだけの余力はない感じね。哀園るりは銀行取引をほとんどしていない、現金が中心みたい。田浦の言うような生活してたんじゃないかなぁ。それも今洗ってるから」

流石に丘頭警部だ、佐藤刑事とは全然違う反応に可笑しくなって、つい声を出して笑ってしまった。

「どうした?一心、何が可笑しい?」

「ごめん、佐藤刑事じゃ、今の報告来るまでに一月はかかるんじゃないかと思ったら、可笑しくてさ」

「あ~、一心、あれは坊ちゃんだから。比較しないでよ」そう言いながら笑う警部。

「これ見たら、田浦は20万円なんて下ろしてないな」

「そうなのよ。当時、ここまで調べなかったのね」警部は顔を曇らせる。

「そうだ、指示書のタイトル変えるわ、要請書にする。警部に指示なんてできないからさ、俺」一心がそう言うと、良いわよ、と別に気にしてなさそうな警部。

「なぁ警部、殺された哀園るりの財布には3万2千円あったんだろ、何故、一万でも二万でも田浦に返さなかったんだ?それに、田浦は何故、財布の中身を見なかったんだ?調書には何も書いてないけどよ」

「そうねぇ、刃物出されたら、有り金叩いてもその場を取り繕おうとするわねぇ」警部も首を捻る。

「警部、その事件、えん罪じゃないのか?その疑問にいち早く気付いた玄武元刑事は、洗い直そうとして真犯人に殺されたんじゃ?」そう言ってはみたが一心の心の中に靄がかかっている。まだ、分からないことが多すぎる、そう感じた。

 

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