第4話

 自分が猫アレルギーだと気付いたのは小学二年生の夏だ。

 友達の家に遊びに行ったとき、そこに濃い灰色の猫がいた。首には黄色の首輪をつけていて、友達はその猫を「レオ」と呼んだ。

 名前を呼ばれたレオは友達の脚に擦り寄ってきて、かわいいなあと僕は思った。

「さわってもいい?」

「いいよ」

「わあ」

 許可を得て、灰色の猫に手を伸ばす。レオは逃げたり威嚇したりすることもなく、大人しく僕の腕に収まった。

 さらさらとした毛の触感と、その奥の仄かな体温が心地いい。ぎゅっと抱くと、にゃ、と短く鳴いた。

「かわいいね」

「でしょ。ぼくのおとうとなんだ」

 友達は自慢げに胸を張った。いいなあ、と僕は思った。うちでも猫飼いたいなあと。

 しかし、異変が起こったのはそのすぐ後だった。

 友達とカードゲームをしている最中、向かい側に座る彼が僕の手札を覗くようにして、顔を引きつらせる。

「え、なにそれ」

 彼の震えた声を不思議に思い見てみると、半袖から伸びる両腕がすべて真っ赤に腫れあがっていた。ぼこぼこと肌が隆起し、無意識に掻いていたのか、ぽつぽつと傷もできている。

 気付けばおかしいことばかりだった。目が腫れぼったい。鼻が詰まっている。熱はないのに身体が熱い。

「猫アレルギーかも」

 友達の母親は車で僕を病院に連れていく道中でそう話した。強烈な痒みに耐えながら助手席に座っていた僕は尋ねる。

「アレルギーってなんですか?」

「うーん、身体が受け付けないんだよね」

 友達の母親は何の気なしに言ったのかもしれない。

 それでも家に帰ったら「猫が飼いたい」と話そうと思っていた僕にとって、その言葉はとても重いものだった。

「新開くんの身体は、猫が嫌いだって言ってるの」

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