第43話:セレーナ・タヴェルナ侯爵令嬢




 何も無くなった屋敷で、セレーナ・タヴェルナはただ座っていた。

 何も無いので、座っているのは床の上だ。

 建国当初から在る由緒正しい侯爵家。

 一人娘のセレーナは、跡取りでもあるので婿を迎える予定だった。


 自分に相応しい気品と家柄を兼ね備えた貴族の令息を吟味していたら、誰もいなくなっていた。

 いや、一人だけいた。

 ダヴォーリオ公爵家三男のジェネジオだ。

 公爵家の中でも、タヴェルナ家と同じように建国当初から在る家柄だ。

 婿に迎えるのに、不満は無い。

 父親もその件には賛成で、むしろ公爵家と繋がりが出来ると喜んでいた。


 そこに、公爵家から手紙が届いた。

『三男ジェネジオは騎士になり身を立てると決まっている。

 本人の意志も固く、婿入りする気は無い。

 これ以上しつこく付きまとうと、法的手段を取らなければならなくなる。』

 手紙の内容を見て、父親はセレーナ

 に質問をした。

「ジェネジオ殿とは、上手くいっているのだよな?」と。


「勿論ですわ!騎士になるつもりだったそうで、照れてなかなか一緒には過ごしてくれませんが、今はご実家を説得している最中ですのよ」

 セレーナがサラリと答える。

 嘘を吐いているのでは無い。

 彼女の中では、これが真実だった。


 セレーナが嘘をく理由が無い為、父親はその言葉を素直に信じた。

 信じてしまった。

 その後、何度も同じようなやり取りがなされていた。

 タヴェルナ侯爵が娘の言葉を鵜呑みにせず、きちんと現状を調べていれば何かが違ったのかもしれない。




「ジェネジオ様にまとわりつく小蝿を、排除しようとしただけですわ!それなのに、私に懸想した馬鹿な男が私を……私を……。許さない、あの女。私を助けに来たジェネジオ様に抱きついて……」

 令嬢強姦未遂事件で学校に呼ばれたタヴェルナ侯爵夫妻は、王家の騎士から話を聞き、娘の発言を聞き、やっと娘の異常性に気が付いた。


「ダヴォーリオ公爵令息のジェネジオ殿は、うちのセレーナと恋仲で、婿入りに反対しているダヴォーリオ公爵を説得している最中だと、娘からは説明されていたのですが……」

 タヴェルナ侯爵が項垂れながら、校長室でポツリと呟く。

 既に証拠の映像を見た後なので、弁解しようとしても無駄だった。



「建国当初から国に仕えた侯爵家を、このままついえさせるのは王家としても本意では無い。侯爵家の血筋の者を養子にし、後継とするように」

 事件から数時間が空いてから呼ばれた為に、既にセレーナの件は王家の知るところとなっていた。


 セレーナは処分保留となり、とりあえず自宅謹慎となった。

 処刑はされないだろうが、かなり厳しい罰が与えられるのは予想出来た。

 タヴェルナ侯爵は、もう娘には関心が無かった。




 タヴェルナ侯爵は、後継に出来る数少ない親戚の所へに通っていた。

 侯爵家当主となれるのに、誰も首を縦に振らなかったからだ。

「なぜ!建国当初からある由緒正しい侯爵家の当主になれるのに、何が不満なのだ!」

 タヴェルナ侯爵が溜まった鬱憤を吐き出す。


 そういうところでは?と使用人達は思ったが、今日付で辞めるので進言する事は無かった。




 そして2度目の事件が起こった。

 使用人がほぼ居なくなり監視が緩くなっていた為に、セレーナは裏社会の人間に伯爵令嬢の社会的抹殺を依頼しに行った。

 そして実行日当日に、現場で傷害の現行犯で捕縛されたのだ。


「残念だ」

 国王からの最後の言葉は、それだけだった。

 今までの功績を誉める言葉も、建国当初から長年仕えた事をねぎらう言葉も無かった。



 セレーナは心神耗弱の為に、一時帰宅が許された。

 そういう者が収容される施設に、一生閉じ込められる事も決まっている。


 タヴェルナ侯爵家は廃家となる事が決まり、二度と復興出来ない。

 侯爵夫妻は家屋敷……家財の全て売り払い、遙か遠くの国に嫁いだ侯爵夫人の姉の娘を頼る事にした。

 ダヴォーリオ公爵家とティツィアーノ伯爵家に慰謝料を払う前に、夜逃げするのだ。


 家を没落に導いた娘は見捨てると、夫妻は決めていた。

「お前など連れて行っても足枷にしかならん。明日には罪人として捕えられるから、ここで待つが良い。いや、恋人のジェネジオが助けに来てくれるかもな」


 フンッと鼻で笑い、ドレスも脱がされ下着姿のセレーナを置いて、夫妻は屋敷を出て行った。

 ドレスは1枚残らず売られたのだ。




 セレーナが真っ暗な屋敷内で座って居ると、人の声が聞こえてきた。

「本当に何もねえな。売り払える物がひとつくらい有れば御の字だったんだがな」

「鍋の1つまで売ってったって話だぜ」

「壁の燭台でも剥がしていくか~」

 夜逃げして無人になった侯爵家に盗みに入った盗賊だった。


 通常の夜逃げは、逃げるのに支障のない程度しか物を持ち出さないから、盗賊には良い仕事場だった。

 しかし今回は、慰謝料の為にと家財を一切合財売り払った後だった。

 盗賊達が諦めかけた時に、を見付けた。


「ジェネジオ様?やっと私を迎えに来てくださったのですね」

 視線の合わない笑顔で、セレーナは笑った。




 終

────────────────

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

これにて終了です。


書く前は、主人公が無自覚ざまぁをする話にしようと思っていたのに、ガッツリ自分で動いてましたね(笑)



また次作でお会い出来たら幸いです

(*^_^*)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

身代わり令嬢の華麗なる復讐 仲村 嘉高 @y_nakamura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ