ー第3話ー


結局の所、その日は1日中保健室で寝ていた。


状況を整理するには、これ程もってこいの静かな場所は無いだろう。


保健室の叔母ちゃんの独り言を他所に、俺は整理を始める。


先ず、確かな事は所謂"タイムリープ"をしたという点。


誰が何の為に、そもそも誰の仕業、人の仕業なのかも分からない。


たまったものじゃないが、運が悪かったのかもしれない。


過去に来れたのならば未来にだって行けそうだが、根元の部分が暗すぎるのでこちらは後回しだ。


今の所、俺の記憶に支障は無い。2022年の記憶もちゃんと引き継いでいる。



そして―――――――、これは妄想に過ぎないかもしれないが、何となく悟った事がある。



"姫咲 桜を救えるのではないか"



先程、俺が本来の動きと違う行動を取ったせいでブレは生じたかもしれないが、基本的には俺が歩んできた高校生活そのものだ。



今日から1年と2ヶ月後に、俺は姫咲 桜に告白し、姫咲 桜は死ぬ。



結果を知っている俺なら、その未来を回避させる事が出来るのでは無いだろうか。



あの、桜からの謎の手紙も何か意図があるのでは無いのだろうか。



その為に、俺はタイムリープしてきたのではないのだろうか。



無事救えたら、告白の返事だって―――――。



いや、返事など二の次だ。



桜を死なせない。



桜を助ける。



これが最優先目標。



なるべく大筋からはブレない様に、陰で詮索する。









――――――そして、必ず桜を殺した犯人を突き止める。





***********************




非常に居心地の良い保健室を泣く泣く後にし、帰りのホームルームには出席する事にした。


懐かしい担任。

初めてでは無いその話。


………なんだか、不思議な感覚だ。調子が狂う。


クラスには凪以外にだって友人はいた。


しかし、先程からの凪の応答を鑑みるに恐らくそこまで関係値は深められていない。


無理に仲良くしようとすればする程、本来到達すべき未来から大きく逸れてしまうかもしれないのだ。


時間が解決する、というやつなのかもしれない。



と、どうやらそんな事を考えている内にホームルームが終わったらしい。


皆友人に別れを告げ帰路についたり、各々部活等へ向かっている様だ。


この期間は……、仮入部期間か。


幸い、俺は高校時代に部活など入っていた記憶が無いので大人しく家に帰る。


教室を出ようとした所で、何者かにガシッと肩を掴まれた。



「天木乃!……ったく、どこ行くんだよ。部活だろ部活。仮入部開始早々にサボりかます気か?」



「………凪か。お前はサッカー部だろ。俺は帰る」


すると凪はどこか不思議そうな視線を向けてきた。

………変な事は言っていない筈だが。


「何言ってんだよ、俺がサッカー部入ろうとしたらお前が頭まで下げて一緒に文芸部入りたいって言ったんだろ。ほら」


そう言って、凪は仮入部届けを見せてきた。

確かに、凪の文芸部に入部する旨が記されている。


…………どうして。


2022年まで生きていた俺は文芸部になんて入らなかった。


しかし、この世界を生きている過去の"俺"は文芸部に入ろうとした……?



既にズレているのか?


それも大幅に。


無理に今からでも軌道修正するべきか。


それとも、このまま入部して………、と俺が思考を巡らせていた時だった。



「もー、2人とも何してるの!早く行こうっ!」



「………さく…、姫咲さん?なんで……」



「姫咲さん、天木乃のやつさっきからおかしいんだよ。コイツが"俺達2人を文芸部に誘った"のにさ」



……………俺が?


桜と凪を?



「うーん、文芸部行きたくなくなっちゃったのかなぁ……」



「…ごめん、整理させてくれ。俺が凪に頭まで下げて、姫咲さんまで誘って文芸部に入部しようとしたのは本当…なんだな?」



凪と桜は顔を見合せて。



「そーだよー?」



「……頭でも打ったのか天木乃」




何がどうなっているんだ。



「……すまない、冗談だ。さ、文芸部に行こう」



頭をいくら悩ませた所で、過去の"俺"の思考は読み取る事など出来ない。


半ば無理矢理に思えたが、凪と桜は特に悪態をつく事も無く共に部室へ向かった。

























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君が導く未来の君 みるく @1emu4

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