ー第2話ー
「………おい、天木乃!…天木乃閃!!」
「…………っ!!!」
目を覚ます。
いや、意識を取り戻したと表現する方が近いか。
脳がまだ回っていない。
ここは………、教室?
それに……、高校時代の制服を着ている?俺が?
何故?
「………コスプレ趣味にでも目覚めたのか俺は」
そう呟くと、先程から俺の名前を連呼する少年がすかさずツッコミを入れる。
「…は?何言ってんだ天木乃。次、移動教室だぞ。早く行かないと面倒だ」
………、凪?
何故俺の事を苗字で呼ぶんだ。
しかも何故お前までコスプレ趣味に……。
いや待て。
コスプレから一旦離れる。
周りを見渡しても、そこは"高校の教室"だった。
大学では無い。
すると黒板に記してある文字に目が止まった。
「……………4月―――、15日?」
おいおいおい、今は6月だろ。
そんな馬鹿な事……。
「凪、今西暦何年だ?」
凪は、意味が分からないと眉間にシワを寄せてため息混じりに吐く。
「お前どうしちまったんだ……?"2019年"だろ」
「………本当、だな?」
「…何言ってるんだ、お前。つか馬鹿な事言ってないで早く行くぞ!授業遅刻する!!」
俺は間違いなく、さっきまで2022年を生きていた。
この制服、この教室、黒板の日付、凪が俺の事を苗字で呼ぶ点――――――、全てを照合し、信じたくは無い答えが出る。
"俺は、タイムリープをしている"
おまけに原因不明、目的不明の超ハードモード。
夢だったら良いと願う。
しかし、残念ながら現実の様だ。
――――――そこで、長らく聞いていなかった声が、どれ程もう一度聞きたいと願っただろう声が、俺の鼓膜を揺らした。
「――――――おーい!天木乃君!宮ノ瀬君!早く行かないと遅れるよーーっ!」
……………っ!!!
息を飲む。
その姿に、声に、つい瞬きも呼吸も忘れそうになる。
ずっとずっと、もう一度会いたい、見たい、聞きたいと願っていた人。
好きで好きで、たまらなかった人。
――――――――そう、姫咲 桜。
立ち上がり、歩み寄る。
足は震えていた、声も震えていた。
彼女を捉える視界さえ、ぼやけていて。
それでもずっと会いたいと願っていた彼女の元へ近づく。
その瞳、その髪、その体をもう一度見たくて。
それだけが、俺の生きる理由でもあって。
「…………っ、桜、本当に桜なんだよな……?生きているん………だよな?」
「い、いきなり下の名前!?それに生きてるって……え、もしかして天木乃君の中で勝手に私死んでたりします?」
苦笑いしながら、桜は一歩後ずさる。
………それに関しては否定出来ないのが苦しい。
俺が今、実は未来から来て、その未来でお前は死んでしまっている……だなんて口走った所で信じて貰えないだろうし、何より桜にそんな事を言いたくは無い。
「…………ごめん、姫咲さん。ちょっと体調悪いかも。保健室行ってくる」
「な、なら私が付き添うよ!宮ノ瀬君、先生に私と天木乃君の事伝えておいて!!」
そこまでして貰う必要は無い。
それに、今は正直桜と距離を置きたいのだ。
複雑に絡まった糸が解けて、感情に収拾がつかなくなっている。
「いや、気持ちは嬉しいけど俺1人で大丈夫だよ。さく…、姫咲さんまで面倒な事になるぞ」
「そんなのどうでも良いよ!天木乃君辛そうだし……、放っておけない!……なんか、私のせいでも……ありそう、だし…」
途端、彼女の顔が曇る。
ダメだ、こんな表情お前には似合わない。
元はと言えば俺のせいなので、全力で弁解する。
「昨日徹夜してさ……、それで、頭が回らなくて寝惚けてて。でも本当にもう大丈夫だよ。俺はちょっと保健室でお昼寝でもしてくるから、先行ってて」
「………うん…」
何だか納得のいっていない様子だったが、俺は凪に宜しくなと言い残すと保健室へ歩みを進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます