ー第1話ー



無気力に天井を見上げる。



真っ白い天井。



俺も、何もかも忘れて白に染まりたいと思った。



それでも、やはり彼女の笑顔が忘れられない。



大学1年になった俺、天木乃 閃は大学生とは名ばかりの堕落した生活に浸っている。

講義にも気が向いたら行く、極力家からは出ない。人とも喋らない。

能動的にそうしているのかと聞かれると、怪しい部分はある。

何かに縛り付けられているような、そんな感じだ。



トントントン、と誰かが階段を登る音が聞こえる。

………まぁ誰かは知っているのだが。



「よ、閃。ほーら、大学行くぞ!このままじゃお前ずっと大学行かないだろ。留年だぞ、留年」


人様の家に勝手に上がりこんで(母から了承は貰っているのだろうが)、呆れた目つきで俺を見るのは高校時代から親友の"宮ノ瀬 凪"。

身長は174cmの俺より少し高く、所謂爽やかイケメンというヤツだ。


「………別に、俺が大学に行かなくてもお前には関係無いだろ。迷惑はかけてない。帰れ」


凪に背を向けて横になる。

はぁ……、とため息をつき更に呆れた様子の凪が、俺のベッドに腰を下ろす。


「…………親友として、お前には元気でいて欲しいんだよ。高校時代のお前は、もっと明るくて、頼れて……っ」



「…………うるせぇよ」


凪は俺の言葉など聞こえていないかの様に続ける。


「……お前がこうなってしまった原因、桜の件は俺だって悲しかったし、すっげー落ち込んだ。でもな、アレは俺達にはどうしようも無かったんじゃないか?今更悔やんでもしょうがないんじゃないか?前を向い……」


「………うるせぇって言ったよな」


今度は声のトーンを一段と低くした。


「どうしようも無い?悔やんでも仕方無い?笑わせるなよ。最後にアイツに会って喋ってたのは俺だったかもしれないんだぞ。俺が……、俺が…っ!!」



「閃!!!!!!」



そう言って寝ている俺の胸ぐらを掴み、凪は叫んだ。



「あのなぁ、お前の気持ちは分かる。だけど、悲しいのはお前だけじゃないんだよ!!桜が死んでからこの2年間、みんな悲しかったんだよ!それでも、みんな少しずつ前向いて頑張ってんだよ!!……、お前も、大人になれよ………!」



その目は泣いていた。

桜の葬儀以来だった、凪が泣いているのを見たのは。

俺は頭を冷やし、気持ちを落ち着かせる。

少し間を置いて、口を開けた。



「……分かってるさ、前を向かなきゃいけないって事くらい。でも……、それでも俺は…アイツが、桜の事が好きだったんだよ……。ごめん凪、お前にはいつも助かってる。でも今日は気分が乗らないんだ、帰ってくれ」



凪と視線を合わせずに放った。

掴む力を弱め、凪は自身の袖で涙を拭く。



「閃、困ったり悩んだりしたらいつでも連絡くれよな。親友なんだからさ」



「……おう、ありがとな」



凪のそんな温かい言葉に、俺は何度も救われてきた。絶望で前が見えなくなっても、何とか我を保っていられた。

だから、俺は凪に感謝してもし尽くせないのだ。




***********************




凪が出た後、母親から手紙を渡された。



宛名が俺の名前になっている。

それ以外の情報は封を切るまで何も無かった。



桜の母かららしい。



「………でも、どこか懐かしい字だ」



そんな感想がポロッと零れた。



丁寧に封を切る。




「――――――――――――!?」




手の震えが止まらない。


どういう事だ。


思考も停止する。


意味が………、分からない。





"死にたくない、助けて"




そんな文言が、手紙には書かれていた。




確信した、この字は明らかに桜の直筆だ。




でも何故?



桜は2年前のあの日に亡くなっている。



これは2年前の桜が俺に書いた物?



どうして?



全く整理がつかない。


答えが分からない。



手紙を持ったまま階段を駆け下り、台所にいる母に問う。



「母さん!これ、なんで桜の母さんが!?」



急に叫ばれて驚いた様子の母が胸をさすりながら答えた。



「桜ちゃんのお母さんがね、桜ちゃんの部屋を整理してたら見つけたんですって。貴方宛になってて驚いたらしいけれど…」




「そうか……ありがとう」




当時の桜が俺に助けを求めていた?




分からない、分からない。




いくら考えても何も出てこない。




その日、俺は自室で永遠と頭を悩ませていた。




結局、答えは出なかった。




答えなど出る筈も無かった。




彼女はもう死んでいるのだから。




俺は、いつの間にか意識を失い眠りについた。









――――――目が覚めると、3年前の世界にいるとは知らずに。
























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る