いじめっ子が望んだこと
きと
いじめっ子が望んだこと
中学2年生である
勉強が大してできるわけでも、スポーツが得意なわけではない。
それなのに、多くの人が彼のことをよく思っていた。
それが、腹立たしい。坂本が調子に乗っている以外の何物でもない様子なのに、大半のクラスメイトがそれに気づかない。
ムカつく。ムカついて仕方がない。
そうして、浅水は坂本をいじめることにした。
通りすがりにわざと足を踏んだり、肩をぶつけたり。その後は、無理矢理に坂本が悪いことにして謝らせる。坂本の机や下駄箱にゴミを詰めてみたりもした。
それでもなお、浅水のイライラは収まらなかった。
「おい、坂本。ちょっとペン貸せよ」
「いいよ」
そうして、借りたペンを浅水が返すことはなかった。
「おい、坂本。ちょっと体育館の裏にきてくれよ」
「いいよ」
そうして、呼び出した坂本を浅水は、何度も殴った。
「おい、坂本。お前の髪型、目障りだから坊主にしろよ」
「いいよ」
そうして、翌日、坂本は坊主頭になっていた。
「おい、坂本。金貸してくんねぇか?」
「いいよ」
そうして、坂本は浅水に5万円を渡した。
浅水は、笑いが止まらなかった。
坂本は、もう自分の操り人形だ。何をしても、「いいよ」と全て受け入れる。
これでいいんだ。これがあるべき姿だ。
これこそが、浅水が望んだ結末だ。
ある日のこと。浅水は、ふと気になった。
――坂本は、どこまで俺の言うことを聞くんだ?
「おい、坂本。放課後、4階の空き教室にきてくれよ」
「いいよ」
そうして、浅水は坂本を呼び出した。
夕暮れ時の静かな時間。空き教室に二人だけの空間。浅水は、ゴクリとつばを飲み込むと、坂本に言った。
「坂本。窓から飛び降りろよ」
「いいよ」
ドクンドクンと心臓が高鳴る。
坂本は、窓に歩いて行く。
そして、窓枠に足を乗せた。
そして、そして――。
「ちょ、ちょっと待て! 本当に飛び降りるのかよ⁉ 何してんだよ、お前⁉」
気づけば、浅水は坂本の服を引っ張り、飛び降りるのを止めていた。
確かに浅水は、坂本が嫌いでイジメていた。でも、死んでしまうのは違う。それでは、確実に浅水が悪いことになってしまう。もともと、調子に乗っていた坂本が悪いのに。
そんな悪いはずの坂本は、服を引っ張る浅水を見る。どす黒く濁った眼で。
「何って――これは、君が望んだことだろう?」
「い、いや、そうかもしれないけど、でもよ!」
「今さら言い訳するのかい? 君が望んだから、僕はボロボロになったのに。君がしたかったことは、なんでもしたのに」
「ま、待ってくれって。俺は、そんなつもりじゃ……」
「君の望みは、僕がいなくなることだろう? それを僕がしてあげるっていうんだ。何で止めるんだ?」
「違う、違うんだよ。謝るから、もう――」
「何が違うんだ? 何が違うんだよ? ねぇ? 何が違う? 何が? 何が? 何が? 何が? 何が? 何が? 何が? 何が? 何が? 何が? 何が? 何が? 何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が――」
「うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああ⁉」
それ以降、浅水は学校に行くことができなかった。
調子に乗っていたのは、自分だということに気づいたのは、いまさらになってからだ。
いじめっ子が望んだこと きと @kito72
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