第35話「超・本気解放!」


 叫びと共に力を解放した瞬間、これまで感じたことがない凄まじいエネルギーの奔流が全身の内側を駆け巡る。


 暴れ出そうとするエネルギーを右脚に集約させると、力が集まった俺の右脚は超新星の如き輝きを放ち始めた。

 今にも爆発しそうで、力をとどめておくので精一杯なほどだ。


 それもそのはず。

 なぜならこのエネルギーは本来、俺の中には存在しないものだからだ。


 この極大のエネルギーを、ゴライアスに叩き込むッ!


「貴様っ、まさかその力は!?」


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 俺は気合いの叫びと共に右足で力いっぱい地面を蹴り、豪速でゴライアスの懐に飛び込む。

 鈍重なゴライアスには反応出来なかったのか、俺の接近を容易に許した。


「ゴライアス!」


 俺の接近に一拍遅れて気付いたスペクターがゴライアスに迎撃命令を下そうとするが、もう遅い。

 俺は左脚を軸にして体を捻り、最強のパワーを込めた渾身の回し蹴りをゴライアスの胴体に叩きこむッ!



流星一蹴シューティング・ワンッッッ!!」



 放った蹴りはゴライアスの分厚い腹部に突き刺さり、瞬間、圧倒的なエネルギーの奔流が炸裂する。

 鉄壁のように固いゴライアスの装甲を砕き、その内側まで爆発の如き衝撃を与えた。


『オゴァァァァァァァァッ!?』


 ゴライアスはその威力に耐えられず、悲痛な叫びを上げながら数メートルほど吹き飛んでいった。

 その拍子にゴライアスは砕華を手放し、地面に落下する前に彼女の体を受け止める。


「げほっ、げほっ」


「砕華! 大丈夫か!?」


「う、うん、平気。ありがと」


 絞められていた首を手で擦りながら砕華は正常な呼吸を取り戻し、すぐに自分の足で立ち上がった。

 それ以外の傷は軽そうで、安心した俺は咄嗟に彼女の体を抱きしめる。


「え、衛士!?」


「よかった。君を助けることが出来て、本当によかった」


「うん……ありがと、衛士。大丈夫だよ。それよりも衛士、さっきの力は……?」


 砕華は不思議そうに首を傾げる。無理もない。


 なぜなら俺がゴライアスに放ったのは――。


「デュアリス! なぜ貴様が、使!?」


 スペクターは明らかな動揺を見せながら、俺の力の正体をただす。

 疑問を抱くのも当然だろう。


 なにせ俺が放ったのは『粉砕』の力。

 すなわちメテオキックの最強のパワーそのものだからだ。


「俺とクロが砕華の能力で別たれた時、俺の中にはわずかに砕華の力の一部が残っていた! それを俺の『再生の白』で再現したんだ!」


「バカなァ!? 貴様如きがメテオキックの力を扱うなど!」


「これがアンタがずっと無能だと蔑んできた俺の、力だ!」


 俺の能力は肉体の傷を修復するほかに、状態の変化や消費したエネルギーを元に戻し、再現することが出来る力だ。

 完全に失ったものは再現できないが、わずかでも残っていればそれを火種にして再燃させられる。

 その力で俺の中にあったメテオキックの力の残滓を増幅させ、強力な一撃に変えたのだ。


 もちろん俺が放った蹴りは本来のメテオキックのパワーには到底及ばない。

 もしメテオキックの全力を完全再現できていたなら、今頃ゴライアスの体は木っ端微塵になっていたはずだ。


 倒れていたゴライアスはその形を保っており、苦しそうに腹を擦りながらゆっくりと上体を起こしている。

 ダメージはかなり与えたはずだが、やはりあの一撃では倒しきれなかったようだ。


「一度ならず二度までも私の手を煩わせおってェ……絶対に許さんぞ貴様らぁぁぁぁぁッ! さっさと立ち上がれ! ゴライアスッ!」


『オ……オオ……オオオアアアァァァァァァァァァァッ!!』


 激昂するスペクターの命令によりゴライアスは雄叫びを上げて立ち上がり、スペクターの元へ戻って来ると俺達に向かって巨大な拳を構えた。

 しかしその動きはどこかぎこちなく、強制的に動かされているようにしか見えなかった。


 もしかすると、あのゴライアスも改造されたことでスペクターの言いなりにならざるを得ない状態なのかもしれない。

 己の意思に反して行動することは、とても苦しいだろう。


 同じようにスペクターに利用されていた俺が出来るのは、その苦しみから解放してやることだけだ。


「砕華、手を!」


「っ! うん!」


 俺は右手を砕華に伸ばし、その手を砕華の左手が強く握った。

 砕華の手から柔らかい温もりを感じつつ、握った砕華の手を通じて俺の再生のエネルギーを送り込む。

 すると砕華の全身が白銀のオーラに包まれ、砕華は驚いた様子で自身の手や身体を見つめる。


「力が、溢れてくる……!」


「俺の力で砕華の体力を回復している。触れ続けないと維持出来ないから、このまま繋いでてくれ」


 俺の力を他者に対して使うには、常に触れていなければならない。

 だが俺達なら、手を繋いだままでも戦える。

 それが出来るはずだ。


「アイツを倒す! 力を貸してくれ、砕華!」


「分かった! ならアタシは……アタシ達の限界を砕く!」


 砕華は繋いでいる手を通し、俺の中にエネルギーを送り込んで来る。

 それはとても熱く、全身の血潮を滾らせ、俺の力を大きく広げる感覚があった。


 砕華の『粉砕』の能力によって俺の力の限界が破壊されたことで、これまで無意識にセーブしていたものが解放されたのだ。

 おそらく今だけの一時的なものだが、それで十分だ。


 俺は深く息を吸い、気合いを入れて全力で叫ぶ。




超・本気解放スーパー・ディスチャージッ!」


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