第15話 「映画は見る前も楽しい」

ト音記号の形をしたモニュメントの横を通り過ぎる。

右を見てを左を見ても、前を見ても後ろを見ても大きいビルが聳え立つ。


「池袋って、映画館がいくつかあるんですけど、この先の映画館がおしゃれで綺麗だし、上映している作品数も多いんですよ!!」

「へぇ、そうなんだ」


本当は僕が行く場所を決める予定だったので、数軒ある映画館をの場所は事前にネット上で下調べしていたが、ユイさんがオススメの映画館を案内してくれている。

年上としては面子丸潰れかもしれないが、正直、あまり知らないのでありがたい。


ユイさんの話に相槌を打ちながら道を進むと近代的なデザインのビルが目の前に現れた。


「ここです! 」

「確かにおしゃれで綺麗だね」

「外観もそうですが、館内も凄いんですよ!! 」

「へぇ~」


僕とユイさんはエスカレーターを上がった。

喫茶店やゲームセンターを横目に上がっていくとキャラメルポップコーンの香りが漂ってきた。

鼻腔を甘い匂いが通るたびにお腹の動きが活発になる。

そんなお腹の動きを鎮めながら、上へ進むとあたりは薄暗くなっていき、宇宙ステーションを彷彿させる、映画のワンシーンのような広いスペースが現れた。


「語彙力があまりないから、なんと言えばいいか分からないけど、本当におしゃれで綺麗だね」

「はい! まるで、映画世界に来た感じじゃないですか? 」

「映画をほとんど見たことがない僕が言うのは変かもしれないけど、確かにそうだね」

「でしょ~!! 」


ユイさんは「どうや! 」と言わんばかりの鼻高な顔をしている。

自分が作ったわけでもないのに。


そんな事を思いながらカウンターへ進もうと、するとユイさんに後ろから袖を掴まれ、動きを止められた。


「あっちで買えますよ」

「えっ? 」


ユイさんはカウンターとは逆方向を指差す。

そこには縦長のモニターがズラッとあった。


「シュウさんが映画館へ行った当時は、カウンターしかなかったかもしれませんが、最近はカウンターじゃなくて、ラーメン屋の券売機システムみたいな感じに、映画のチケットが買えるんですよ! 機械の台数も多いので後ろに並んでいる人をそこまで気にせず選ぶことができます。それと、電車で話していた、ネットで購入した前売りは、これで発券できます!! 」

「最近の社会の進化は凄いね」

「社会の進化というか、シュウさんが映画館へ来なさすぎなだけだと思いますよ。あの機械だって、最近と言っても少し前からありましたし」

「そ、そうだよね……」



ユイさんの言った通りだ。

そりゃ、15年以上映画館へ行っていないので当然のことである。



「では、何を見ましょう?」

「な、何か見たいのはある?」

「見たい作品は大体、前売りを買って見ちゃっているので、シュウさんが選んでいいですよ! 1回見た映画でも、それはそれで新発見があるので」

「な、なるほど。で、でも僕は、どれが、どんな映画か分からないから人気作だったり、オススメを教えてくれないかな?」

「そうですね~……。私が最近見て面白かったのは、コレです!」


ユイさんは、そう言いながらスマホを突き出す。

画面に映るのは、どんよりと森林に男女が立っていて、その上に赤い血文字みたいなフォントでタイトルが書かれているポスターだった。

見るからにホラー映画だ。


「こ、怖いのはちょっと、、、」

「そうですか、、、主人公の事を馬鹿にしてた同級生であろう人たちが、次々と襲われていくのが、気持ち良くてスッキリしたんですけどね、、、」



なんだろう、ユイさんから、そこはかとなく闇を感じる

僕にも闇があるから、お互い様だけど、、、、、



「そうですねぇ〜、あと、今、上映しているのは、ここ数年人気のアニメ監督が作った新作とか、この間までテレビでドラマが警察官の劇場版、昔やってたアニメ映画の敵キャラクターを題材にした実写映画、人気ハリウッド映画の続編、小説が原作のガンアクションとか、色々ありますが、何が気になりますか?」

「えぇっと…… あれ? これは、、、、」


僕は、とあるポスターに視線を向けた。

そこには、今朝、レイカと見た、「魔法ヒロイン キューティーミラクル」の主人公が描かれていた。



「ん? もしかして、シュウさん、キューティーミラクルに興味があります???」

「あるというか、今朝、妹と見たから、目に止まった感じかな」

「えっ! シュウさんも見たんですか! 私は毎週見てますよ!!  これを『女児向けアニメ』と大人は馬鹿にするかもしれませんが、なめちゃいけません。これは子供にでも分かるよう起承転結がはっきりしているために、盛り上がり部分と盛り下がり部分の揺れが大きいので、見ていて凄い楽しいんですよ。それと、子供向けアニメって娯楽だけでなく、情操教育をさせるコンテンツでもあると思うのです。見ていて、製作者のそれがわかった時、いわば『子供に伝えたい、生きていく上で大事な事』が読み取れた時にすごいエクスタシーを感じるんです!! それに、子供向けアニメってアニメだけじゃ無いんですよ。関連のおもちゃを作ったりして、お金を、経済を動かそうとしているので、そのマーケティングを眺めているだけでも楽しいですね! 」

「そ、そうなんだ……」



ユイさんは、キューティーミラクルについて、熱く語った。

正直、軽く引きそうになったが、僕に、ここまで「好き」と言えるものが無いから、ちょっと羨ましい。



「どうします? キューティーミラクル見ます? 」

「ユイさんがそこまで語るのなら楽しそうだけど、少し恥ずかしいかな、、、」

「そんな事ないですよ! 大人のファンも多いので恥ずかしく無いです! それにこの映画、公開して1ヶ月程経っているので、見る人も減ってきてはいますし」

「そ、そうなんだ……」

「だったら、これともう1本見ましょう! 今はまだ午前中です。時間はまだまだいっぱいあります!! 映画を10年以上見ていないシュウさんだったら、1回見るだけじゃ足りないと思いますよ! この『映画』という娯楽を知ってしまえば、次を欲するに決まっています!」

「じゃぁ…………これと、ユイさんが最初に進めてくれたホラー映画を見ようかな? 」

「シュウさんが、それがいいと言うなら私はOKです!! 」


ユイさんは笑顔で了承してくれた。


とりあえず、見る映画が決まったので、機械の待機列最後尾に並び、順番を待つ。

1分もしないうちに、僕らの番になった。

機械の操作がよく分からないので、支払い以外はユイさんに全部任せた。



「とりあえず、アニメの方はもうすぐ上映なので、トイレとか済ませちゃいましょ!」

「そうだね」



トイレを済ませ合流すると、ちょうど上映アナウンスが流れたので、僕らは係りの人にチケットをモギってもらい、指定された番号の所へ足を運び、席に着いた。



「受付過ぎた後の廊下は、また雰囲気が違ったね」

「はい! 赤い絨毯のためかなんかお城の廊下を歩いている感じでしょうか。胸が躍ります! 」

「そ、そうだね」


館内の席は6割程埋まっている感じ。

ほとんどが娘連れのお母様か、お父様だ。

でも、ちらほら一人で来ている大人も見かけるので少しホッとする。


上映前に携帯電源を落としていると、目の前にある画面が点灯。

今度公開される映画の宣伝のようだ。

そこから、新作映画の宣伝や上映マナーについての映像が10分ほど流れ、本編が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

足りない二人の作品集 みっちゃま @mittyama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ