第33話支援職はエルフの里を救う1
魔族を倒した後、俺達は帝都を目指した。シエナさんは近くを通りかかったダンジョンの街へ向かう奴隷商の商隊に合流して、元来た街へ戻った。
帝都までは距離が遠い、一旦街へ戻って、新たに冒険者を雇い直すらしい。
シエナさんは街へ奴隷として戻った。俺はシエナを今の状態から解放してあげたかったが、アリスにシエナを買ってくれないか? なんて言えなかった。それは奴隷の分をわきまえないことだし、俺を買ったばかりのアリスにそんなにお金が無いことはわかっていたからだ。
仕方がないんだ……俺たちは奴隷。自由なんてないんだ。
せめてシエナの次の主がいい人だといいなと願った。
☆☆☆
俺たちは帝都までの中間点の街で3日の休暇をもらえた。護衛している商隊が休息と補給をするためだ。その間に俺たちはクロエの里を救うために里へ向かった。
「じゃあ、クロエ、案内を頼む。アリスは後から何とかついて来てくれ」
そう言ってクロエを抱きかかえる。お姫様抱っこで。
「ひゃ、ぼ、僕、里の戦士なのに、こ、こんなの困るのね!」
「今はそんなことで恥ずかしがっている場合じゃない。里はどっちだ?」
クロエは西の方向を指さした。
俺は加速の符術を発動して、クロエを抱えて疾走した。
ドンという音速の壁を突き破る音が聞こえたが、そんなことはどうでもいい。
アリスはなんか待ってよぉ〜とか言ってたが、一刻を争う。
だから、アリス……置いていこう。
「ぎゃああああああああああ!!!!」
クロエが少々うるさいが、方向がわかったので、エルフの里の位置はすぐにわかった。
探知の符術魔法に反応があった。火の手と何人かの人の感があったからだ。
そして、僅か3分で里にたどり着く。
クロエは気を失ったようだ。 だが、その方が良いような気がした。
何故なら里は完全に破壊されていて、既に賊の手によってかなりの被害が出ていると見た。
クロエが見ない方がいい惨状なのは容易に察しがつく。
クロエを茂みの中に隠して隠ぺいの符術を施すと俺は里の中に入って行った。
途中に無残に殺されたエルフの男達が多数見られた。みななぶり殺しにされていた。原型をとどめないほどの酷さだ。思わず拳に力が入る。
そして、人の感のあった方に向かって行く。 大きめの教会だろう、そこでそれは行われていた。
「ひぃー気持ちいい!」
「たまんないな!」
二人の男が下衆い声を上げる。
だが奇妙だ。人の感は二人、そしてこの性臭、一体やつらは何を……?
俺の見たものは俺の想像を遥かに超える醜悪なものだった。
「死んだ女はたまんないなー」
「お前変態かよ! よくそんなことできるな!」
「お前こそ、死んだ女を切り刻んで楽しいのか?」
俺が教会に入ると何人かのエルフの女性が死んでいた。性臭から穢されたのは間違いない。
その上、暴力を受けていてみな顔が腫れている。
それ位ならまだいい。
手や足や首が切断されたり、顔がぐちゃぐちゃに……
かつては綺麗な人だったのかもしれない。だが、今となっては知る由もない。
俺が教会に入ると、二人の賊は俺に気が付いたようだ。
不快なことに一人は俺に気がついておきながら、死んだ女性に腰を振るのを止めなかった。
もう一人は女性の頭を切断している最中だった。
「……お前ら……許さん」
俺はそう言うと剣を抜いていた。
俺がそう言うと、賊はようやく腰を振るのと女性の首を切断するのを止めた。
「お前、正義の味方のつもりか?」
「それに、なんだ? 俺達にかなうとでも? 俺達半魔族だぜ」
「信じらんねぇ馬鹿が来たぞ!」
「ちげえねぇ、ぎゃはははは! 男の身体切り刻む趣味ねぇての!」
俺は空気を吸い込むと、身体強化系の符術と闘気強化 のスキルを使った。
そして、こいつらに聞いた。
「お前達、何者だ?」
「はあ? こいつ何言ってんの?」
「俺達が何者かって聞いてるんだろ?」
「そんなの見た通りの半魔族だ、へげっ!?」
ビシャ
賊の一人を剣で瞬殺する。
俺の一撃で男は粉々に吹き飛んだ。
壁に人型の血と肉片がへばりついている。
俺は憎しみに心が染まった。何の罪も無い人達に……・
憎しみはMAX状態だ。
こいつらにかける情は無い。それに半魔族? 人間ですらないことは明らかだ。
「もう一度聞く、お前の低能でもわかるよう言ってやる。お前は何者だ? 他の奴らは何処にいる? そしてお前らのアジトや黒幕のことを教えてもらおうか?」
「お。教える。だから殺さないで! 俺達は人さらいだ。魔族四天王の一人、ジョシュア
様の配下だ。アジトはアッシュフォードにある。他の奴らはこの里のエルフを何かに使うためにアッシュフォード近くのダンジョンに向かってる。何に使うのかは俺達下っ端じゃわからねえ」
「わかった」
俺はそう一言。
「あ、ありがてえ! 俺は助けてくれるんだな?」
何言ってんだこいつ?
「一言……言い忘れていた」
「へ? 一体何を?」
「お前はもう死んでいる」
「へ? ぶへっ!!」
助ける訳がないだろう?
自分がやったことを相応に返されると思わんのか?
俺は一人目を殺した時、同時に二人目も殺していた。
俺の剣技だと正確に細胞の隙間を狙ってサイコロのように細かく切り刻める。
だが、細胞の水の張力の力でしばらくは引っ付いている。しばらくはな。
バシュ
激しく血しぶきを巻き散らして男がサイコロ状になって肉片としぶきだけになる。
グラム1円でも売れん肉だな。
人の命を弄んだ代償は払ってもらおう。
こいつら、殺されたエルフの比較的綺麗な死体で……
アリスにもクロエにも言えないな。
急いでアッシュフォード近くのダンジョンに向かってる賊を追わないと。
だが、その前に。
俺は探査のスキルで隠れている生存者がいないか確認した。
だが、生命反応はなかった。
仕方なく、クロエの元へ向かう。
クロエを抱き起して、顔を少し叩くとようやく目を覚ました。
「レ、レオ様?」
「様はいらない。俺は君の里を助けられなかった愚か者だ」
「……助けられなかった?」
俺の言葉で途端クロエの表情が曇る。
「既に大半のエルフが賊に攫われてアシュフォードに向かっている。だが約束する。生き残りの君の同族は俺が必ず助ける」
俺の言葉を聞くとクロエは徐々に顔を歪ませて。
「わー----。父様、母様!!! ぼ、僕は戦士失格なの!」
俺はクロエの目を強く見据えて。
「泣くな。戦士なら、死ぬとわかっていても戦わなくてならない時がる。負けるとわかっていても進まなければならない時がある。君はそれができた。君は立派な戦士だ。誇りを持て!」
だが、クロエは。
「ち、違うの。僕は、僕は、戦士なのに戦士長からお前は女の子だからむごい目に会うから助けを呼びに行けと言われて……みんな死を覚悟して戦ったのに僕だけ助かってるの」
俺は更にクロエの目を見据えた。
「クロエ、君は戦士長の指示に従い、助けを求めて俺の元に来た。君は自身の責務を全うした。自分に誇りを持て。誓う、俺は君の仲間を必ず助けだすと」
「う、うっく、ううう」
だが、クロエはいつまでも泣き止むことは無かった。
自身のせいでもないのに、自責の念に堪え切れないのだろう。
俺は拳を握り締めると、自らの血で自らの掌を汚した。
……決して許さん。
俺は心に誓った。
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