第32話魔族はぶち殺される2
「な、なんだって? く、空気読めない。何でそれを? 僕の悩みは人間にもわかるのか!」
な、なんで僕の弱点を知っているのです! こいつ、ただでは済まさないのです。
「よくも僕を侮辱してくれたね。いいよ。君はそこの人間の女が好きなのですね。ならばあなたの目の前でその女を喰らってあげる。さぞかしいい声で鳴いてくれると思うよ。僕は人間から恐怖の悲鳴を上げさせるのが得意なんだ。それに、その女、肉付きも良くて柔らかそう。その上、この魔力。極上の食事が楽しめそうだよ。でも、極上の食事にはやっぱり人間の恐怖に引き攣る顔と悲鳴が必要なんだ。それがないと味が落ちるんだよね」
「……よく喋るヤツだな」
ほんと、何なんだ? こいつたかが人間のくせに、顔色一つ変えず、歯をガチガチならして竦むどころか恐怖すら感じていないと思えるのです。だけど……所詮人間。こいつは唯の彼我の差がわからない馬鹿なのです!
「まあ、正常に僕の言うことが聞いていられるうちが花だよ。さあ、まずはあなたの首をもいで、すぐに死なないように治癒の魔法をかけた上で、その女を食べてあげる。ああ、もう、美味そーーーー! ジュルリ! へ?」
僕が美味しそうな奴隷の女の子を見て舌で舌なめずりをした途端、僕の唇に異変が起きたのです。
「い、痛ぇえええええ!! てめえ! お、俺のぐちがぁ!!」
「どうやらそれがお前の本性らしいな。さあ、これからパーティータイムだ!」
「ふ、ふざけやがってぇ!!」
ち、ちくしょう! 俺の舌をぉ!
だけど、僕のステルスの魔法の餌食にしてやる。魔族だって、この技が使えるのは僕位だしね。魔力が弱くても、僕は最強なのです。
ふふ、ここは時間稼ぎをして、特大の魔法で粉微塵に吹き飛ばしてやるのです。
「うわあ、こいつ、本気で僕と戦うつもりだよぉ! 本当にこんな馬鹿がいるなんてぇ! 人を助けようなんて考えている場合じゃないだろ? なんで人間って、こんなに馬鹿なのぉ?」
僕は密かに収納魔法の中に魔法陣を構築する。特大の爆裂魔法だ。突然、これを喰らえば人間なんてチョロい。
「ほんと、ふふっ、昨日の冒険者達もちょっと手足を切断してあげたら、『助けてくれー!』 とか、『死にたくない!』とか、おしっこ漏らしなが言うんだよ! いやーホント楽しかったぁ!」
「お前……死んだ人まで凌辱するのか? 戦った相手への敬意はないのか?」
「はぁ? 敬意? お前は遊びで虫を殺す時に虫に敬意なんて払う? 僕にはわかんないなぁ」
ホント、こいつ馬鹿なのかな? 僕が虫けらを殺す時に敬意を払う? 意味がわかんないんだけど?
「お、お前は……ゆ、許さない!」
「はぁ? 一体どうやって? お前はもうすぐ、へ? あれ?」
な? 何故? 一体どうなってるのです?
僕は嫌な予感がして、自分の目線を下に下げた。だって、俺より背の低いこの人間に髪を掴まれて頭をぶら下げられてるなんて、考えられることと言ったら?
「そ、そんな馬鹿なぁ!!!」
悪い予感があたった! 僕の身体がぁ! 僕の身体がないぃぃぃぃぃぃ!!
「ぼ、僕の身体がぁ!」
僕の身体は後ろに倒れたらしい、そして……。
ブシュ―
何度も聞いたことがある血が噴き出す音が聞こえた。気が付くと、涙が出て来て、歯がガタガタとなっていた。
「お、お願いだぁ! な、なんでもするから! お願いだから助けてぇ! 僕、心を入れ替えるからぁ!」
僕は必死にこの人間に頼んだ。屈辱だけど、どうせ僕たち魔族はしばらくすると瘴気を吸って復活する。だから、せいぜい気分よく一旦殺させて、油断したところを後日襲って殺せばいい。僕は自分の演技に愉悦した。
「君? さっきの女の子が同じお願いをしたけど、聞いたか?」
「あ、あれはちょっと気分が悪くてぇ! 気分が良かったら、きっと、助けていたのです!」
「……そうか」
あは! 信じられない! この人間、こんな嘘に引っかかってるの? 馬鹿なの?
「じゃ、さっきの女の子と同じように……蟹の甲羅と同じ要領にね」
「い、嫌ぁああああ!」
信じられないよぉ! 何なのこの人間? サイコパス? 僕の頭を蟹みたいに割るなんてそれでも人間ですかぁ!!
メキメキメキメキ、カパ
嫌な音と共に僕の頭は割られた。
僕の目の前は涙と鼻水でもう何も見えない。やだコイツ、怖すぎる。
「い、嫌ぁああああああああ!」
「君、いい声で泣くね。さあ、じゃ、脳みそかき回すね」
バリバリバリ、グチャ、クチャクチャ。
嫌な音と共に人間の男は僕の頭の中に手を入れて僕の脳みそをかき乱した。
やだ、もう、早く殺して! 一旦はだけど……怖いよぉー。お母さん!
あれ? 僕のお母さんてどんな人だっけ? そうか! 脳みそぐちゃぐちゃにされたから、忘れたんだ。
え? 人間もこんな怖い目に? お母さんの顔を思い出そうとしても思い出せず?
いやいやいや、おかしい、おかしい。脳みそぐちゅぐちゃにされて、おかしくなってる。
僕と人間を同格に考えるなんてありえない。僕は完全に変だった。
だけど、どうせ僕は2,3日で復活する。その時は……仲間を連れて……覚えてやがれ!
「あ、ぐ、ああ、もう、殺してぇ!」
「ああ、殺してあげるよ。君たち魔族は細胞が少しでも残っていると、瘴気を吸って生き返るんだろ? だから、細胞の一辺たりとも残さず完全にこの世から消し去ってあげるよ」
「い、いやああああああああああ!!」
僕の悲鳴と共に人間の男は僕の脳みそをどんどんそこらに放り投げて行った。
……そして、僕が目覚めることは二度となかった。
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