支援職、最強になる~パーティを追放された俺、微妙なハズレスキルと異世界図書館を組み合わせたらえらいことになった。は? 今更戻って来い? 何言ってんだこいつ?~
第26話勇者パーティは終わる(勇者アーサー視点)
第26話勇者パーティは終わる(勇者アーサー視点)
「は! 早く逃げろ! あいつらが喰われてる間に逃げるんだ!」
「そうよルビー! もっと早く走りなさいよ!」
「だって、私は魔道士で、体力がぁ、はあ、はあ」
全く、ルビーもここで使い捨てだな。まあ、身体にも飽きた頃合いだからいっか。
早くと急かしてしまった事に嫌悪感を覚える。
勇者アーサー達は無事魔法禁止区域の24階層を抜け出し、23階層に辿りついていた。だが、23階層も符術士ビアンカの参入のおかげでようやく突破できた。万が一魔物に会うと生存確率は果てしなく0になる。
それにしてもとアーサーは考える。
チッ。あの馬鹿聖女、奴隷や冒険者如きに憐憫の情が湧いたか?
勇者アーサーは奴隷のシエナと新人のビアンカを捨て駒にして魔法禁止区域の24階層を抜け出した。だが、聖女アナベルが二人を置いて追いて来なかったことに腹をたてる。聖女が仲間を見捨てる筈がないというにも関わらずにだ。
全く、聖女というヤツらは腹が立つ。犯りたくても犯ったら聖女の能力を失う上、魅了のスキルも効きやしねえ。存在価値がねえっての。
一人、聖女への怒りを沸々とたぎらせ、周囲への警戒をしながら進むアーサー、だが。
「う、ん? 何をやってるんだ? エミリア?」
「何って? 決まってるわよ。ルビーにね。怪我をしてもらうのよ」
ザクッ
何気に剣を抜いたエミリアが魔道士ルビーの腹に軽く一撃入れる。
「や、止めて! な、なんで!」
見るとエミリアがルビーの腹に剣を刺して怪我をさせている。
エミリアは何をしてるんだ?
思わず立ち止まる。
「エミリア?」
「アーサー様。足の遅いコイツをここで死なない程度に怪我をさせておけば魔物はコイツに群がると思いませんか?」
「お、おう」
「アーサー様ぁ! お、お願いです。助けてください!」
なるほどと腑に落ちる。いい考えだ。抱くのには飽きたし、ここは使い処か?
「ルビー、今までよくやってくれた。名誉ある役目だ。エミリア、ルビーを置いて逃げるぞ。ルビーが喰われてる間に逃げるんだ!」
「そ、そんなぁ! アーサー様! 私のことあんなに愛してくれたのに!」
「うるさい。俺のために死ね! 行くぞエミリア!」
「あ、あはは!? あーおかしい!」
エミリアは大笑いをしてルビーを足蹴にする。
「傑作だよ。今年一番のネタね。何? あんたアーサー様の女気取り? 馬鹿じゃないの? 男爵令嬢風情のあなたに釣り合うとでもと思ってるの? 笑えるんだけど?」
「おいおい、エミリアそんなにハッキリと言っちゃだめだろ。そういうことはオブラートに包んで言うものだぞ」
アーサーは弩級のクズだが、エミリアもなかなかのクズである。
仲間として何とも思わないのか?
憐憫の情はないのか?
だが、エミリアから帰ってくるのはひたすらルビーへの嘲りだった。
「そうですわね、アーサー様。私、反省しました。やっぱりアーサー様は流石です。それに比べてルビーと来たら。すみません。あ、だめ、やっぱり笑いを抑えきれない、ぷ、ぷぷ」
ルビーは唇だけでなく、掌もギュと握りしめていた。
揃いも揃って下衆。
そんなことに今更気がつくルビー。
だが、ちょうどそこに魔法戦士シエナと符術士ビアンカが合流する。
「アーサー様、今回の件のことは後程話しあいたいと思いますが、今は生きて帰ることが先決です。聖女様が身を挺して私達を救ってくれました」
何だと? 聖女が奴隷や冒険者如きを助ける為に? 馬鹿か?
俺達などルビーを見捨てて囮にして逃げようとしていたぞ? 頭の出来が違い過ぎるか?
確かに違い過ぎる、クズ具合がだが。
「アーサー様、さあ、早く行きましょう」
「おい、エミリア? お前、右手はどうしたんだ?」
アーサーは唐突に消えたエミリアの右手……があった空間を見て驚く。
「え? 何を言って、今この剣でルビーの腹を刺したばか、え?」
ゴトン。
剣を握りしめたエミリアの腕が地面に落ちた。
どういうことだ? 何があった?
「ア、アークデーモン!」
「キ、キィェェェェェェェェェェェェエ!!!!!!」
奇声を上げるアーサー。だが、すぐに我に返り聖剣を手にする。
「ルビー! 魔法で支援しろ! シエナ! 肉壁となれ! ビアンカ! 支援魔法だ!」
「は、はい!」
「アーサー様、今は従います。ですが」
「ビアンカさん。今は堪えてください。生き残る方が先です。聖女様の善意を台無しにしてしまいます」
シエナの言葉に頷くとビアンカは符術で支援魔法をかけ始めた。
そしてシエナが最前列に出て、エミリアは後ろに下がる。既に片腕を失った彼女に前衛は務まらない。ルビーは重傷の腹を押さえながら魔法で支援する。
しかし、グレーターデーモンですらオーバーランク、アークデーモンは更にその上を行く魔物である、故に。
「エミリア! 少しは戦え! は?」
勇者アーサがエミリアを叱咤するが、彼女を見た瞬間背筋が凍る。
ブシャーーーーー。
エミリアの頭部は切断されていて転がって来てアーサーの足にあたる。そして舞い上がる血飛沫。
「え? ウソ……だ? こんな……の?」
「勇者様! 前線に出てください! 私だけじゃ無理です!」
シエナが前線の支援要請を伝える。当然だろう。勇者アーサーは最も前衛に適した才能の持ち主だ。
「ひッ! い、いや……だ!」
この後に及んで怯むアーサー。戦わなくては生存はあり得ないにも関わらず。
「そうだ! ルビーを餌に気を逸らして!」
そう言った瞬間。
びちゃ
ルビーの身体が爆散して、血飛沫が自身に降りかかる。
「ち、違う、こんなの、お……おかし……い」
気がつくと勇者アーサーは一目散にその場を逃げ出した。
敵に背を向けて……勇者とは何なのか?
そして、アーサーの目にビアンカの叫び声と最後の姿が目に焼きついた。
突然顔がひしゃげるビアンカ。血飛沫と共に脳漿と目玉が何処かへ飛んで行く。
そしてビアンカの目の前に大きな黒い刃が出現して。
ジャリジャリジャリジャリ
刃は回転してビアンカの身体をジュースへと変えて行った。
残ったのは元ビアンカの肉と血の汁のみ。
「もう、嫌だぁあああああ!」
いや、違う。俺はこんなところで死んでいい人間じゃない。俺は覚醒するんだ。
この不幸は俺を覚醒させる為の茶番なんだ。神が仕組んだ試練。
何の根拠もなく、既に思考が都合が良くおかしくなっているアーサー。
後ろを振り返り、聖剣による勇者最大の武技を繰り出そうと、剣を構えた。
気がつくとシエナがアークデーモンに首から吊るし上げられている。
「あ、あぐ、げ……ごふ……ぶふッ」
口から血を吐き出して苦悶の表情のシエナ。よし、シエナに気を取られている間に一緒に俺の武技、ブレイブスラッシュで消し飛ばしてやる。勇者である俺が負ける筈がない。負けてはならないのだ。
「行け! 聖剣デュランダル! ブレイブスラ、え?」
その時気がついた。
「は? はあ?」
いつの間にかアーサーの両腕は切り飛ばされていた。
こ、これじゃ勇者の……力が……。
「……う、嘘だ」
そうしている間にシエナの叫び声が、そしてエミリアの身体が。
ズチャ
シエナの身体が。
ドチャ、ぶシューーー。
そして勢い良くシエナの頭部がアーサーの横を転がり抜けて行く。
シエナの首に気を取られていると。
「し、しまっ!!!
アーサーは最後まで言葉を発することが出来なかった。
目の前にアークデーモンの顔があり、睨まれる。
そして。
ズチャ
気がつくと視界が反転する。
見ると目の前に自身の下半身が。
ブシャーーーーー
激しい血が噴き出し。アークデーモンが自分を見下すと。
メキメキメキ、グチャ
アーサーの頭はしばらく軋んだ後、アークデーモンに踏み潰された。
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