第25話勇者パーティはお約束通り困る5

「何故、勇者様は戦いに参加してくれないのですか?」


それまでの疑問をぶつけた。流石にこのミノタウロス相手にこのメンツでは無理だ。勇者の参加が必須だ。だが、ビアンカは勇者アーサーの言葉に耳を疑った。


「俺は勇者だぞ。万が一死んだらどうするんだ? 死ぬのはお前らの役割だ」


「はあっ!?」


信じられない暴言、いや、この勇者は本気で言っているのか? 確かに勇者とは唯一無二の存在。だが、歴代の勇者は仲間と共にあり、時には仲間を助ける為に自身の身の危険を厭わず戦いに身を置く。それが常識だった。だから、ビアンカは勇者パーティに憧れ、修行に研鑽を重ねたのだ。勇者パーティに招聘された時は天にも昇る気持ちだった。しかし、真の勇者とはこんなものなのか? それならこんなパーティにいる意味なぞない。


そんな中、シエナがミノタウロスに致命傷の一撃を入れる。


「今です! 勇者様!」


例によって瀕死の魔物にとどめだけを刺すよう促すシエナ。


「おい! ビアンカ! 万が一に備えて俺にも敏捷力強化に体力強化、それに筋力強化の魔法をかけろ!」


「はあ? いや、もうこれ以上符術を展開できませんよ! 既に6枚ですよ? そんなたくさんの符を同時に展開できる訳ないでしょ! そんなのできるの、あの有名なレオさんだけです!」


「な、なんだと貴様! レオのような足手まといが有名な訳あるかぁ!」


「いえ! 符術士のレオさんと言えば符術士の憧れ! 同時に12もの符術を展開して、その魔力から身体強化などの魔法の威力は聖女様以上! 符術士で彼の名を知らない者はいません!」


「なんだと?」


「いや、あいつはろくに符術も使えず、貧弱な剣しか使えないポンコツだったわよぉ? 笑えるっしょ! ぎゃははは!」


「そうよ。いつも私達のこと舐めるように見てばかりで、うわぁって思ってたわ」


「その通りです! ルビーさん! レオさんの凄いところに気がついていたのですね! そうなんです! レオさんは如何に符術を使わずしてパーティーの力を最大限生かすかを常に考えていたのです。だから常に仲間を観察して最低限の符と知略だけで、そう、彼はパーティの司令塔として最も優秀とみなされていたんです......本当に素晴らしい、あれ以上の符術士は今世紀に二度と現れないでしょう」


レオが符術士界隈で有名人?


思わぬビアンカの発言に驚く勇者パーティ。そんな馬鹿なことがある筈がないと信じこみ、レオを持ち上げるビアンカに驚く。


「いや、レオなんて大した奴な訳ないっしょ! あんたの方が優秀! レベル70でしょ?」


たまらなくなったエミリアがそんな馬鹿なと笑い飛ばす。だが、ビアンカは驚きの表情を浮かべてこう言った。


「えっ? い、いや、と、とんでもないです! 符術士ランキング1位のレオさんより優秀だなんて言われたら恐縮しますよ。私なんて10位に入れるかどうかで……」


そんな馬鹿な……勇者パーティは皆、驚くばかり……。


今頃気づいたのか? シエナは一人、突っ込んでいたが、皆が警戒心が薄れている中彼女だけは周囲への警戒を怠っていなかった、が故に気がついた。


「グ、グレーターデーモンです! オーバーランクです!」


「ひぃ!」


「い、いやぁ! あいつだけはぁ!」


「た、助けて! あれだけは嫌!」


皆、前回聖女アイリスを犠牲にした戦いはそれなりにトラウマになっていた。


「シエナ! ビアンカ! お前ら肉壁になれ!」


ドン


と勇者アーサーに蹴られて後衛職のビアンカが前に出されてしまう。


「あなたもよ!」


ドンと今度はシエナがエミリアに蹴飛ばされる。


「え?」


勇者の無茶無茶な行動に気を取られたビアンカはグレーターデーモンの一撃を受けきれないで、剣を飛ばされてしまう。


「し、しまった!!」


「撤退だ。その女達を見捨てて、撤退するぞ!!」


「……そ、そんな」


勇者アーサーは一目散に撤退していく。いや、逃げたのだ。


ガチン、とデーモンの鉤爪の一撃を魔法戦士シエナが受ける。


「今のうちに剣を拾ってください! 前衛は私に任せて!」


そしてシエナとビアンカの見事な連携プレー、だが。


「こんなの無理!」


「最後まで諦めないで!」


とは言うものの死を覚悟していたシエナ、ビアンカもまた死を覚悟していた。


レベル70の彼女と言えど、パーティに逃げられた今、死を待つよりないのは明らかだった。


「大丈夫です。ここは私に任せて下さい!」


これまで会話に加わって来なかった聖女アナベル。いや、何故彼女は逃げなかったのか?


シエナとビアンカは不思議だったが、デーモンの攻撃を避けるのがやっとで気を取られている暇もない。


再びビアンカが剣を吹き飛んばされる。後衛職の彼女に前衛でグレーターデーモンと殺りあうなど無理な話なのだ。そしてグレーターデーモンの目が赤く光る。


高レベルの彼女はそれが何を意味するのか十分にわかっていた。


終わった。自分の人生が終わったと覚悟した時!


「あなた達は逃げなさい!」


見ると聖女アナベルが何か魔道具を発動してグレーターデーモンに攻撃を行っていた。


グレーターデーモンへの攻撃はかなりの威力を与えているようだ、


「し、しかし、聖女様が?」


「いいからシエナさんと逃げなさい。私には最悪テレポートの魔道具があります!」


「わかりました。聖女様。でも、必ず生きて帰ってください」


「いえ、あなた達の方が危険です! 私は魔道具でこのダンジョンから脱出できる! でもあなた達は! 早く勇者達と合流しなさい! それで少しでも生存確率が上がります!」


「わかりました。聖女様。さあ、シエナさん行きましょう」


「し、しかし……」


「聖女様の好意に甘えましょう。それに私達の方が……危険です」


シエナは頷き、ビアンカと共に元来た道をひた走るのだった。

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