第24話勇者パーティはお約束通り困る4
魔法戦士シエナは無事勇者パーティと合流した。シエナは自分など死んでしまえばいいと思いはしたが、自殺するほどの勇気はなく、生還した。
そして勇者パーティは性懲りも無くダンジョンに挑むのである。
また勇者パーティは新戦力を迎える事になった。表向きは不慮の事故で亡くなった聖女アイリスの補充だ。
その後新しい聖女アナベルを聖教会から招いて何度もダンジョンに挑んだ。だが、結局第23階層すら突破する事は出来なかった。
「みんな、どうかしているぞ!! 新しい聖女様来てくれたんだぞ! あのクソ忌々しい聖女が死んで意気消沈しているのだろうが、あんな女はむしろいなくなった方が良いヤツだった。みんなの足手まといだったじゃないか? せっかく足手まといがいなくなったのに、お前たちがやる気を出してくれんと話にならん!」
勇者アーサーが怒って、怒鳴っているが、メンバーの士気は下がるばかり、いや、剣聖エミリアと魔道士ルビーはベソをかいているし、新しい聖女アナベルや魔法剣士シエナはその顔に怒りの形相さえ浮かべている。だが、勇者の権威は絶対なのだ。彼に意見をするものはいない。聖女は前の聖女が何故死んだか察しがついていた。アーサーの自分や皆への扱いから察していた。
やむなく勇者パーティは更に新戦力を迎えることになった。貴重な即戦力、特にこのSクラスのダンジョンの魔物等の情報に詳しい符術士の戦力の補充だった。勇者パーティは結局収納と翻訳のスキルを持った冒険者を雇うことはできなかった。金が足らなかったのだ。
そう、レオはSクラスの冒険者相当だったのだ。そう簡単に正規のSクラス冒険者など雇える筈が無い。ちょっと考えればわかることだったが……。
「今日から新しいメンバーの元冒険者のビアンカとダンジョンに潜る。今日こそ第23階層を突破するぞ。ビアンカは冒険者と言えど、レベル70の符術士だ。勇者パーティの威信にかけて、みっともないところは見せられないからな!」
アーサーは新戦力のビアンカに視線を向けて、皆に紹介する。こんな時でさえ、新メンバーが女性なのは、アーサーがそっちの方も期待していたからである。
「ビアンカです。よろしくお願いします」
ビアンカはそう言って礼をして、皆に笑顔を向けた。当然だろう。勇者パーティへの招き。冒険者の彼女にとって千載一遇のチャンスだ。彼女は奴隷ではなかった。身請け料を支払い済みで平民としての地位を自身の手で取り戻していた。しかし、符術の才能しかもたない彼女にとって、勇者パーティに迎えられる事は極めて光栄な事だ。もちろん、アーサーは彼女を奴隷のシエナ同様肉壁要員と考えていた。とりあえずの戦力と、その身体を楽しんだ後は、どうでもいい存在。彼にとって、女性とは物と何ら変わる事がない存在なのだ。
「勇者パーティへようこそ、勇者のアーサーだ。今後ともよろしく頼む」
ビアンカは感激したかの様にアーサーを見つめる。
「感激です。勇者様にお目にかかれるだけでなく、パーティに加えて頂けるのだなんて!」
「そんなに堅苦しくなるな。早速、ダンジョン攻略に力を貸してくれ」
「ええ、もちろんです」
アーサー達は5度目の第23層攻略に挑戦する。
「颶風灰燼-激-!」
シエナの魔法剣がさく裂する。これまで苦戦したロイヤルオークやロイヤルゴブリンも先頭の彼女中心に有利に戦いを進めて行く事が出来た、ビアンカは符術をシエナに集中した、しかし。
ビアンカは驚いていた。これが噂に聞く、歴代最強の勇者パーティなのか? 勇者パーティには勇者アーサーの他、剣聖エミリア、魔道士ルビー、聖女アナベル、奴隷とはいえ魔法戦士シエナという豪華な才能が集まる集団だ。聖女、剣聖や魔道士は勇者同様最高の才能、奴隷で魔法戦士のシエナですらかなりの才能だ。底辺職の自分とでは天と地ほどの差がある人達なのだ。
しかし、彼女から見て、勇者パーティはまるで素人だ。力任せの戦いしか知らず、その癖、力も及ばない。ビアンカや唯一まともなシエナがいなければ、たかが、Bクラスの魔物にすら苦戦する。
経験値が足らない。レベルを上げる為の経験値では無く、戦いの為の真の経験値が足りていないのだ。しかし、何故勇者パーティがこの様な状態なのか? ビアンカには想像だにできなかった。
ビアンカのおかげで何とか第23階層を抜ける事が出来た。そして、ようやく1週間ぶりに勇者パーティは第24階層に降りる事が出来た。
ビアンカは、このまま第24階層に進むのは危険だと判断した。ビアンカの目から見て、自分以外のメンバーに第24階層を攻略するだけの力はない。自分頼みの戦いは危険だ。他のメンバーに何かあっても一人だけでは対処できない。
この勇者パーティが第24階層を攻略済みなど、とても信じられない事だった。
ビアンカは新参者という立場から、言いにくかったが、意を決して、意見を言った。
「アーサー様、現状で第24階層攻略は危険かと思えます。もう少し、レベル上げを行った方がいいのではないでしょうか?」
極めて全うな意見だ。他のメンバーも頷くものが多い、しかし、肝心のアーサーが自信たっぷりにこう言った。
「大丈夫だ。いざとなったら、俺が何とかする。これまで第24階層なんて簡単に突破してきたんだ」
「わ、わかりました」
ビアンカはある意味納得した。これまでアーサーはほとんど前衛で戦っていない。後方で支援をする一方、弱った魔物には一撃だけ入れて経験値を稼ぐ。勇者という特殊な存在だから仕方ないのか? 冒険者パーティでこの様な事をしたら、いざこざになる。いや、はっきり言えば、卑怯なやり方だ。一人だけ安全であり、かつ、人が苦労して弱らせた魔物に止めだけを刺して経験値だけを得る。
しかし、もしアーサーが危険な戦いの時は前衛に出て、その勇者の力を存分にふるっていたのなら、納得がいく。これまで勇者パーティが弱いと感じたのは勇者抜きで戦っていたためで、もしかしてビアンカを試す為だったのかもしれない。そう思ったのである。
「魔法禁止区域第24階層に進むぞ」
ビアンカは頷いたが、気のせいか、メンバーの顔色が悪い様な気がした。
「ロイヤルミノタウロスです。力だけの魔物です」
「ビアンカさん! 全員に身体強化の魔法を! エミリアさんには敏捷強化と体力強化を! ルビーさんには魔力強化の魔法を!」
シエナの指示に従い符術を展開するビアンカ。シエナの言う通り、剣聖エミリアは敏捷度が足らないし、ルビーは魔力をブーストしないとこの階層では魔力不足だ。
……しかし、最前線で本来剣聖エミリアが担うべきタンク役をシエナが代行してしまっている。彼女は明らかに何度も死線を潜り抜けた戦いに身を投じている。
能力から言えば敏捷強化も体力強化も……そして魔法戦士である彼女も魔力強化の支援は欲しいだろうに……。
だがビアンカはシエナの言われるがまま、符術を展開する。
シエナの熾烈な戦いが続く、彼女は何度もミノタウロスの棍棒を受けそうになるのを紙一重の技量で避けていた。しかし、ビアンカはついに我慢できなくなり、シエナに敏捷強化と体力強化の符術を展開した、しかし……納得できない。
「何故、勇者様は戦いに参加してくれないのですか?」
それまでの疑問をぶつけた。流石にこのミノタウロス相手にこのメンツでは無理だ。勇者の参加が必須だ。だが、ビアンカは勇者アーサーの言葉に耳を疑った。
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