第23話魔法戦士シエナはレオを想う
レオ君! 私のことを守って!
私は自身が奴隷商の竪穴に蹴飛ばして落としたにも関わらずレオ君に縋って想った。
自分勝手だと思う。なんて浅ましい女。私はレオ君が好きだった。その人を私は足蹴にして奴隷商の牢獄に落としたのだ。
許される所業では無い。にも関わらず私はレオ君に縋った。そしてレオ君に以前もらった符を使った。
「符術、隠蔽、チャフ、フレア、煙幕!」
符は練習すれば符術士以外でも使うことができる。レオ君は万が一に備えて私に符を持たせてくれていた。隠蔽の符は魔物の目や五感を惑わす。チャフやフレアは光と囮の物質を放ち、魔物の目を惹きつけ欺く、さらに煙幕の符。これで魔物から逃れることができる。
☆☆☆
命からがらグレーターデーモンから逃げおおせたものの、シエナは自己嫌悪に陥っていた。
「……聖女様。こんな時にレオ君がいたら」
シエナは一人そう呟いた。もしレオが入れば聖女アイリスを収納にしまい帰還することもできた筈だ。失わなくていい命が失われた。しかも聖女……聖女はたとえ手や足が損壊しても元通りに戻す。いや、最高位の聖女なら首を切断されてもセイクリッドリザレクションという最上級の蘇生魔法で24時間以内なら復活させることも可能だ。
だから、聖女アイリスの遺体さえ、頭部だけでもいいから持ち帰ることができたのならアイリスは復活が可能だったのだ。
「私のような生きる価値の無い奴隷が生き残って聖女様が……」
シエナはレオを牢獄に蹴り落としたことで心を病んでいた。実は聖女アイリスがそのことで相談にのってくれて慰めてもらっていた。シエナにとってレオへの申し訳のなさに対して聖女アイリスの言葉が唯一の救いだった。
そのアイリスまで死地に追いやってしまった自分を恥じていた。
「私は奴隷。聖女様の代わりに死ぬべきだった。なのに!」
シエナは自分で自分を責める。責められるべきは勇者アーサーだろう。シエナは自分の能力以上のことをやってのけていた。だが、彼女が自身を責めるのにはもう一つ理由があった。
「ごめんね。レオ君、私、またあなたを裏切った。ごめんね」
シエナの脳裏には子供の頃の情景が浮かんだ。レオはシエナの愛称を知らなかった。シエナの子供の頃の愛称はシェニーだった。そう、レオが会いたいと思っていた子供の頃の幼馴染とはシエナのことだったのだ。
シエナはレオのことにすぐに気がついたが、レオはシエナのことに気が付かなかった。髪型も見かけも随分変わってしまった。シエナは豊かな商人の家の子だったが、父親が商売で失敗すると借金のかたに奴隷として売られた。
だからレオはシェニーが奴隷になっているのだなど思いもしなかった。知っていればシエナの素性に気がついたのかもしれない。
シエナが何故レオにそのことを告げることができなかったのか?
「わ、私は二度もレオ君を裏切った……許されないこと。なのに何故私は生きているんですか? アイリス様……あんなに素晴らしい方が亡くなって……私のようなクズがい、生き残って」
涙するシエナ。
そうあの時も私はレオ君を裏切った。
シエナの脳裏に過去が思い浮かんでいた。
それはちょうどレオとシエナが6歳の時だった。
シエナは鑑定で魔法戦士の才能であることがわかって安堵していた。子供心にもハズレスキルだったらどうしようという恐怖があった。だが、それも杞憂に終わった。だが、自身の安全を確認すると仲良しのレオ君のことが気になった。
『大丈夫。レオ君はきっと凄い才能に違いない』
シエナにとってレオは特別な存在だった。初めて会った時は怖い犬から助けてくれた。
それ以来何度も助けられている。シエナにとってレオはヒーローだった、だが。
「シェニー、隣の家のレオとは二度と口を聞いてはいかんぞ」
「え? なんで? お父さん、何故レオ君のことを呼び捨てに?」
突然以前はレオ君と呼んでいた父親がレオと呼び捨てにした。シエナは嫌な予感がした。
「レオはハズレスキルだ。汚物だったんだ」
シエナの心は闇の奥深くに落ちて行った。
「……う、嘘」
「シェニー、お前は優しいんだな。あんなクズにも慈悲なんて。だが早く忘れるんだ。お前とあの物とでは身分が違うんだ。早く忘れろ」
「……は、はい」
シエナは父親の剣幕に驚いた。あんなにレオ君のことを気に入っていたのに、レオ君がハズレスキルだからといってこの変わりよう。
いや、自分でもわかっていた。昨年の鑑定の儀で……レオ君の家からハズレスキルの友人が出た。
皆、口々に汚物と叫び、罵倒していた。自分がもしハズレスキルだったら? という恐怖と同時にハズレスキルを庇うことは許されない……それを去年覚えた。
去年のハズレスキルの友人を庇う女の子がいた。彼女は村八分に会い、引っ越して行った。
ハズレスキルへの対応。ハズレスキルに味方するとどうなるかは良くわかった。
だが、シエナはそれでもレオへの気持ちが揺るがなかった。
離れたく無い。お嫁さんにしてくれると言ったレオ君。離れたくない。
シエナはレオと別れないで済む方法を一つ思いついた。それは……。
「ね、ねえお父さん。レオ君のことだけどね。うちに奴隷を一人雇おうかって話してたよね?」
「あ? 奴隷の件か? ああ、それならもう決まったよ。それよりシェニー? まさかうちの奴隷にレオを買い取ろうとか思ったんじゃ無いだろうな? 違うよな? もし、そうなら折檻が必要だな」
「ち、違うの。わ、私はただ……」
シエナは自分の考えを見透かされた挙句折檻を示唆されて怯んでしまった。
そして、その後も勇気が出せず父親にレオを買い取ってくれと頼めなかった、そして。
レオの家から泣き叫ぶレオを引きずって父親が奴隷商の方に向かって行った。奴隷として売り飛ばすためだろう。
「わ、私が勇気を出せなかったばかりに……ご、ごめんなさい。レオ君」
シエナは自室からレオを見ていた。一瞬目が会い、涙が溢れた。同時に罪悪感でいっぱいになった。その時のレオが自分を見る目……それはシエナがレオを奴隷の牢獄へ蹴り落とす時の目と全く同じだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます