第22話支援職は冒険者ギルドを困惑させる

ギルド長side


俺がヘナヘナと椅子にへたり込んでいると、ちょうど魔法試験官のカスがやってきた。


理由はわからんが、どっと疲れているようだ。 彼とは唯の同僚、部下と言う関係ではない。 俺がS級冒険者団に所属していた頃からの戦友だ。


だが、いつも沈着冷戦な筈の彼が、明らかに様子がおかしい。 俺自身も激しい疲労感に襲われていたが、カスを気遣い、声をかけた。


「カス、どうしたんだ? 何か焦っているような様子だぞ、お前らしくない」


「ギルド長、今日、私は幻を見たのか、現実だったのか分からなくなってな」


あ! これ、多分、あの少年絡みだ。


確か、彼は午後に魔法試験を受けていた筈だ。


「もしかして、あのレオ君というCランク昇格試験受験者の件か?」


「あ、ああ。あのレオ君という少年のことだ。私の20年以上の魔法の研究は一体何だったんだろうか?」


「はあ……」


思わずため息が出る。剣技だけでなく、魔法もか。カスの様子で、何となく察しはついてしまった。


剣が頭おかしいレベルなら、魔法が頭おかしいレベルでも不思議はない。


「カス、安心しろ。どうせレオ君が頭おかしいレベルの魔法を見せたのだろう? 心配するな、彼は剣技も頭おかしいレベルだったぞ」


「ギルド長……それ、何の説明にもなってませんぞ。ギルド長もおかしくなっていますぞ」


うう。言われてみるとそうかもしれん。


俺は副ギルド長からレオ君の魔法の件の報告を聞いた。


「3km先のラッキーラビットを……また非常識な……それにフリーズブリッドを20本も用意するとか、ほぼバケモンだな」


「ああ、宮廷魔術士でもせいぜい5本程度だと思う。なあ、それにな、彼はその氷の弾丸を目標に向かって正確に誘導していたみたいなんだ。それも同時に何個もな」


「何だって!?」


魔法において、同時に多数の相手を攻撃することは最大の命題だが、それは人間の脳の限界を超えており、やむなくほとんどの魔法使いは広範囲攻撃魔法を使う。


攻撃魔法の弱点をあの少年は克服したと言うのか?


ちなみに、広範囲攻撃魔法より、単体攻撃魔法の方が着弾時の威力は大きい。


俺は更なる疲労感に襲われたが、カスが剣技試験のことを聞いてきた。


彼も察したのだろう、俺がカスに憂鬱に疑問を差し挟んだことに。


剣技で何をやったのか、詳しく説明する。


「そ、そんな……あの少年はギルド長にも見えない速度でB級冒険者をすっ飛ばしただけでなく、錬金術でミスリルをアダマンタイトやオリハルコンに変えたのですか?」


「そうとしか考えられない。クズの剣は間違いなくミスリルの剣だった。間違ってもアダマンタイトとかオリハルコンの伝説の雷神剣じゃない」


「なあ、ギルド長、彼をCランク冒険者程度にしておいていいんだろうか?」


「実は俺もちょっと、心細くなって来たんだ」


二人で落ち込んでいると、その時、受付嬢のシャーロットが駆け込んでいた。


「た、大変です! レオ君の筆記試験がぁ!!」


一体、レオ君の筆記試験がどうしたんだと言うんだ?


まあ、今更少しくらいのことでは驚かんが。


「レオ君の筆記試験、全問不正解だったんです!! そ、それがっ!!」


「何っ! そ、そんな馬鹿なことがあるかぁ!!」


俺、ちょっとおかしくなってるよな?


今まで全問不正解した冒険者はいた。きちんと勉強してなければむしろ0点は当たり前だ。


「いえ、それが……問題が大きすぎるのです!!」


「いや、もう勘弁してくれないかな? 一体何があったんだ?」


もう、これ以上は勘弁して欲しいです。


「我がギルド一のスキル『基礎魔法理論』持ちのアルさんの見解によると、魔法の学科試験の量子魔法学の問題。回答外に確率統計学を用いると簡単に解けるよ(笑)と書いてあって、例として、魔法素粒子の軌道計算式、確率統計学の公式を適用して解いてあったのですが、見事観測結果に一致……念のため、王立魔法学園に打診してみたのですが……今、今世紀最大の発見だと大騒ぎになっています!」


「はぁ?」


俺、もうやだぁ。


「あと、他の問題も……間違えていたのは……私達の方……というか、魔法学園の全ての基礎理論を根底から覆されて、突然魔法学が1,000年先へ進んだと大騒ぎになっています!」


だかららぁ~。そういうとこ!!


「ギルド長、これは、一ギルドには荷が重すぎる問題ですぞ。ギルド連盟長経由で、国王陛下にご報告をした方が?」


「た、確かにそうだな、シャーロット君、試験結果と試験に関するレポートをまとめて、ギルド連盟長宛に国王陛下にご報告くださいと、至急魔法通信を送ってくれ。もちろん魔法学園の見解も添えてだ」


俺は丸投げできて安堵した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る