支援職、最強になる~パーティを追放された俺、微妙なハズレスキルと異世界図書館を組み合わせたらえらいことになった。は? 今更戻って来い? 何言ってんだこいつ?~
第27話勇者パーティは終わる(シエナ視点)
第27話勇者パーティは終わる(シエナ視点)
聖女様のおかげでグレーターデーモンから逃れて勇者パーティと合流出来た。ビアンカはアーサーへ苦言を呈していたが、アーサーを良く知るシエナにはどうでも良く思えた。
それにしても……エミリアがルビーの腹を刺し。
「あ、あはは!? あーおかしい!」
エミリアは大笑いをしてルビーを足蹴にする。
「傑作だよ。今年一番のネタね。何? あんたアーサー様の女気取り? 馬鹿じゃないの? 男爵令嬢風情のあなたに釣り合うとでもと思ってるの? 笑えるんだけど?」
信じられない。自分やビアンカは奴隷や平民だからと思っていたけど、仲間のルビーまで犠牲にして生き残る? そこまでする?
アーサー達のことを良く知るシエナにも理解し難いことだった。だが。その時。
「おい、エミリア? お前、右手はどうしたんだ?」
アーサーがそう言った時、剣聖エミリアの片腕がゴトリと唐突に落ちる。
その時シエナの視界に突然現れた魔物、アークデーモンの姿が目に入る。
……終わった。
シエナは心の中で思った。グレーターデーモンですら自分達にはオーバーランク、それがましてやアークデーモン? 待っているのは……死のみ。
痛みを感じず、楽に早く死んだ方がマシだろう。
「ルビー! 魔法で支援しろ! シエナ! 肉壁となれ! ビアンカ! 支援魔法だ!」
「は、はい!」
珍しくアーサーが指揮を取る。流石に身の危険を感じて必死なのだろう。
どうせ生き残れる訳もないのに言われるがまま最前線に出て肉壁の役割を引き受ける自分の奴隷根性が笑える。
だが、アークデーモンは遊んでいる。最前列の自分などいつでも簡単に殺せる。だが、アークデーモンはニヤリと傲慢に思える笑みを浮かべると。
「おい、エミリア! 少しは戦え!」
片腕を失ったエミリアに無理な注文をつけるアーサー。だが、黒い刃がシエナの前を通り過ぎる。エミリアの方に向かって。
ゴロン
ブシャーーーーー
エミリアに何が起こったかがわかる音が聞こえて来た。だが後ろを振り返る余裕はない。
必死に剣を振るうシエナ。
だが、ニヤニヤしながら自分を見つめるアークデーモン。
『私を一番最後に殺す気だ……恐怖を散々刷り込ませて』
それでも意外と足が震える訳でもなく剣を振るえた。
どうせ死ぬんだ……レオ君……私が死んだことを知ったら悲しんでくれるかな?
……そんな訳……ない……か。
私や勇者パーティが惨殺されたと知ったらゲラゲラ笑って気分を良くするかな?
いや……その方が気が晴れる。自分のしたことを考えたら……。謝って済む問題じゃない。
『私は神様が与えてくれた贖罪の機会を台無しにしてしまったんだ』
シエナは思った。自分が子供の頃、ハズレスキルだとわかったレオを裏切った時のことを贖罪する機会……。
あの時、『あの有名な女奴隷のようになりたいのか?』主人が奴隷に無理な注文をつける時に使われる常套句。アーサーは勇者であり、サンマリノ王国の王子でもあったから、余計恐怖が湧いた。それにレオ君はいいからと言ってくれた……でも。
いい筈がない。例え奴隷でも、自分は人間なのだ。死を覚悟してでも拒否すべきだった。
それが自分が好きな人なら……当然だ。なのに自分は?
私は頭に浮かんだ恐怖をふりはらえず、言われるがままレオ君を足蹴にして奴隷商の竪穴に蹴り込んだ。許される筈のない罪。
『だから自分はここで惨めに殺されるだ』
シエナは一人腑に落ちた。神様は自分にチャンスをくれた。人間としてのまともさを問われるチャンスを……だが自分はレオ君を再び傷つけ、裏切った。
……その罰なんだ。
『どうかレオ君が私が死んだことで笑って気分を良くしてもらって、少しでも気を晴らしてくれますように』
そんなことを思っていると黒い刃が再び自分の前を通り過ぎる。
『肉壁の役割すらできてないじゃないの』
自嘲気味に思う。奴隷なら黒い刃に身を晒すべきだ。それが肉壁の役割。だが、黒い刃は気がついた時には自分の前を通り過ぎてしまう。刃の速度が早すぎるのだ。
そして……。
びちゃ
何か肉がグチャグチャになるような音が聞こえた。
「ち、違う、こんなの、お……おかし……い」
勇者アーサーの愚かな声が聞こえる。違わないだろう? 私達にはお似合いの最後じゃないか?
そして、ビアンカの叫び声が……。
ジャリジャリジャリジャリ
ジューサーという機械を見たことがあるが、あれと同じような音がした。これはビアンカからだった。ビアンカさんには申し訳ない気持ちで一杯だった。彼女はこんなところで死んでいい人間じゃない。自分と違ってまっとうな人間……それを巻き込んでしまった。
「もう、嫌だぁあああああ!」
勇者アーサーの声がこだまする。それはビアンカが発すべき言葉だろう? シエナは一人アーサーに突っ込む。
だが、唐突にアークデーモンにあっさりと胴を掴まれる。
「あ、あぐ、げ……ごふ……ぶふッ」
口から血を吐き出て来た。てっきり最後に殺されるのかと思ったので意外だったが、とうとう自分の順番が来たか? これで楽になれるな。その時アーサーの声が聞こえた。
「行け! 聖剣デュランダル! ブレイブスラ、え? は? はあ?」
そうか、アーサーは自分ごとアークデーモンに勇者最大の武技を放つつもりか?
最後はアークデーモンではなくアーサーに殺されるのか?
そう思っていたが、アーサーの武技はやってこない、代わりに……。
アークデーモンは4本ある腕のうち1本を自分の頭部にやると。
「きゃぁああああああ!」
ブチッ
思わず悲鳴が出てしまったが、嫌な音が聞こえて激痛が走ると宙が激しく動き回る。自分の首がもがれて投げとばされて地面を転がっていると理解できた。
そして。
ズチャ
ドチャ、ぶシューーー。
あちこちから嫌な音が聞こえた。
「し、しまっ!!!
ズチャ
ブシャーーーーー
メキメキメキ、グチャ
アーサーの最後の声と思しき声とあちこちから沸き起こる肉が潰れる音や血が噴き出す音を聞きながら、『ごめんね。レオ君。せめて私のこと笑って気を晴らしてね』
最後の想いを考えると最後に何かに当たって止まった。
『せ、聖女さま?』
シエナが最後に見たのは24層で私達を逃す時間を作り、魔道具でこのダンジョンから転移した筈の聖女アナベルの顔だった。
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