第19話支援職はランク昇格試験を受ける2

「は? え?」


審判のギルド長が素っ頓狂な声を上げる。


「え、えっと……レオ君の勝ち……でいんだよな?」


俺に聞くな。


「ギルド長さん。レオは剣聖のアイザック様に師事を受けていたので当たり前です」


「け、剣聖アイザック様? マジか? そんな大物がうちのギルドに?」


「そうです。レオ君はとっても凄いんです。真面目で謙虚で献身的なんです」


アリスが俺のことを褒めてくれるがシャーロットさんのは何だろう?


しかし、俺は思わぬ失態をしたことに気がついた。


クズ、いやクズさんの胴に一撃を入れる時に咄嗟に剣で防ごうとしたらしく、俺はうっかりクズさんの剣をボキボキに折ってしまった。


私物だろうから、かなりの損害だと思う。


は! この試験って単に強さを見るだけじゃなく、気構えや、冒険者の資質を図ってるんじゃないだろうか? シャーロットさんが強さだけじゃないって言ってた。ヤバい、今の凄い低評価だよな?


多分、試験は勝てなくても、爪痕を残すか、気構えがしっかりしていればパスできるヤツだ。


「すいません。クズさんの剣を折ってしまいました」


「ああ、大丈夫だ。これは経費でギルドで弁償する。君が気にする必要はない」


「わかりました。ありがとうございます」


俺は思わず心の中で『ひぃー!?』と叫んでいた。


気にするなって、絶対気にしろって意味だと思う。多分、対戦者の剣を折るとか、ありえないんだ。


確かにちょっと考えたら、弁償するのが当然のような気がする。


やばい、俺の試験が不利になってしまった。


今、ギルド長は気にするなと言った……。 きっと、これも試験だ。 ここで弁償しないとかきっと減点だ。


俺は伸びているクズさんに近づくと折れてしまった剣を手に取った。


しかし……困った。バラバラでとても打ち直すなんて無理そう。


これはかなりピンチだ。


いや、そういうことか、ここで模範的な行動は対戦者への配慮をすることだ。 俺は得心がいった。俺はいい考えを思いついた。


「あ、あのギルド長さん? この剣を俺に修理と少し、強化させて頂いてもいいですか?」


「……え?」


俺の質問に何故か、ギルド長はポカンと口を開けて固まってしまった。


「悪い、何を言っているのか意味が分かんない……が、試験規則にそんな決まりはないからOKだ……多分」


「ありがとうございます」


やった、許可がもらえた。俺には修復や錬金術の符術魔法があるし、付与魔法も当然ある。


よし、剣を再生しよう。ついでに組成も変えて強化しよう。俺はクズさんの剣を見た。


ミスリルの剣か。市場に出回る剣では最上級の剣だ。


危ない、危ない。こんな貴重な剣、俺のせいで折っただなんて。


絶対、試験、落とされる。


は!


これはチャンスだ。


このままただ修復するだけでは、俺がクズさんの剣を折ってしまったというマイナスポイントは消せない。ここは。


俺は錬金の技術でミスリルの剣の中心をこの世界でもっとも頑丈で、少し柔らかいオリハルコンに変え、外周をより硬いアダマンタイトに変えた。もちろん、鍛造と焼き入れの措置も忘れない。


いや、これだけでは心許ない。ギルド長に好印象を受けてもらうためには、もっと工夫を。


そうだ。剣にダマスカス鋼のコーティングを施して付与魔法を付与しよう。


俺は剣を修復というか、全く別物に変えて、付与魔法を付与した。


付与魔法は身体強化に、剣の強化、雷の魔法を強くかけておいた。表面のダマスカス鋼のコーティングに美しい魔法陣の紋様が現れる。付与された魔剣の証だ。


「出来ました。確認ください」


「お。おお、本当に修復できたんだな。助かる。んん? これ本当にミスリルの剣か? なんか軽いし、魔力を強く感じるが?」


流石、鋭い。このギルド長は直ぐに見破った。


「はい、ついでなので、材質をアダマンタイトとオリハルコンに変えておきました。ダマスカス鋼のコーティングもしましたし、付与魔法も施しましたから、安心して下さい。今後、絶対不幸な事故で折れたりしません!」


「は?」


「いや、レオ君は何言ってるのかな?」


「えっと、剣が修復できるだけでも凄いのに、アダマンタイトとか、オリハルコンとか、何?」


なんか、ギルド長がポカンとしてるし、アリスやシャーロットさんが変なこと言ってる。


いや、世界図書館の古文書で読んだ太古の鍛冶の技法を取り入れただけだけど?


「この少年……大丈夫か? 何を言っているのかさっぱりわからん。それに冒険者は自分にあった剣を選ぶから違う剣にされてもな。まあいい、次の試験に行くか」


ひぃー! 俺は慌てて普通のミスリルの剣をその場で作った、出来るだけ元の剣に近づけたつもりだが、元のは俺が影も形も別物に変えてしまったので完全に再現できなかった。


俺は落胆して、次の試験、魔法試験の会場に向かうことになった。




ギルド長side


全く、いるんだよな。焦って上のランクの冒険者を目指す若者が。


俺は満足な防具も身につけていない若者への評価を下げざるを得なかった。


しかも、Fクラスの分際でBクラスの冒険者と試合うのに木剣ではなくきちんとした剣を要求するとか意味がわからん。


まあ、せめて剣技で見るべきものが無いといい点はやれんな。


と、最初はそう思っていた。


だが、少年の構えを見て冷や汗が出た。


「(一部の隙もねぇ!)」


俺には分かる。元S級冒険者だった俺から見て、控え目に言って、達人のそれだ。


俺は凄まじい緊張感に堪え切れず、試合開始の合図をした。


だが。


スパーン


かなりの手練れの筈のB級冒険者が試合開始の合図と共に壁にすっ飛んで行ってめり込んでしまった。


しかも、何が起きたのかさっぱりわからん。


それにしても試験官の剣はミスリルだな。規定でギルドが弁償するしかないな。この少年に落ち度はない。だが少年は意外な提案をして来た。


「剣を修復させてください」


その言葉に反論など出来るはずがなかった。 そして出来上がった剣は何故かダマスカス鋼のコーティングが入り、表面には付与魔法の魔法陣がくっきりと浮かび上がっていた。


ダマスカス鋼のコーティング入りの剣なんて博物館に行かんと見れない物じゃなかったっけ?


やだ、俺、もう泣きそう。


そして俺がこのとんでもなく壊れた少年に最後に残った意地を振り絞り、こう言った。


「この少年……大丈夫か? 何を言っているのかさっぱりわからん。それに冒険者は自分にあった剣を選ぶから違う剣にされてもな。まあいい、次の試験に行くか」


すると少年は慌てて何も無いところからミスリルの剣を作った。


どうやったの? 何も無いところから剣作るとか伝説の賢者位じゃないの?


そして少年がミスリルの剣を持って俺に近づいて来る。


「(ひっ! こ、殺される!!!)」


いや、マジでこいつ、魔族かなんかじゃないか?


俺は少年の持って来たミスリルの剣を見た……何とクズの使っていたミスリルの剣と寸分違わない剣だ。どうやったらそんなことできるの?


やだ、コイツ、怖すぎるでち。

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