第14話クロエの気持ち

「助けを! 僕が助けを呼ばないと!」


自分に言い聞かせながら限界を超えても尚も走り続ける。


敏捷度では定評のあるエルフだが、長距離走は種族として向いていない。


それでも通常のエルフより身体能力に優る彼女は通常の3倍の速度で森の中を走っていた。


「誰か! 誰でもいいから!」


彼女の願いはある意味届いた。 誰でもいいという意味なら。


だが運命は残酷なもので、彼女が出会ったのは人攫いだった。


「そ、そんな!」


森では絶対的な地の利と知識を誇るエルフであるクロエの不覚。


彼女はあまりの疲労で人攫いの罠に気がつかなった。


頭の上から落ちて来る網。普段ならそんな罠なぞ容易に見破ったろうが今の彼女にはもうそんな体力は残っていなかった。


気がつくと牢のような作りの馬車の荷台に乗せられていた。


このまま奴隷として売られてしまうのか? 使命も果たせずに?


クロエの頭にはついこの2日間に起きた事が走馬灯のように蘇った。


「クロエ、お前は女だ。まだ若い。負けた時はむごい目にあう。だから今回の討伐に連れて行く訳にはいかない。そしてお前には別の使命を命じる。里の外の助けを呼んで来てくれ。俺達はそれまで里を守る!」


「そ、そんな! 僕も戦士です! 子供の頃から鍛錬して来ました! 今戦わなかったら、僕はいつ里のために働くんですか?」


クロエは自分の身に何が起きるのかを十分に理解した上で言った。


女だてらに戦士となった限りは敗北した時にどういう扱いを受けるか位の想像は出来た。


謎の人攫いは討伐に出た戦士の内、女は食われるだけでなく、散々暴行されている。


前回の討伐の時は全員の頭部だけでなく、女の下半身も置かれていた。


何をされたの良くわからせるためだろう。


「クロエ! 良く聞け! では誰が助けを呼びに行けるんだ? お前より早く走れる者がいるか? 魔物にあったらどうする?」


「そ、それは……」


長の意見は正論だった。


無駄に命を捨てるより救援を呼びに行った方がエルフの里が助かる可能性が高い。


エルフの里付近に潜む敵の正体は誰にもわからない。里から遠く離れて生きて帰って来た者はいないからだ。


残ったエルフの戦士は10名、戦士以外の男を加えても30名程度の戦力だ。


敗北は必須。既に50人以上が戦死している。


彼らは時間を稼ぐ事しかできない。


「頼む、クロエ! 危険なのはお前も同じだ! エルフの里存続のため、包囲網を突破して助けを呼んで来てくれ! 突破口は作る。もちろん1月は持ち堪えてみせる!」


「わ、わかり……ました。長に従います」


妥当な判断ではある。


しかし、そううまく1ヶ月以内に助けを呼んで来る事は不可能だろう。


長の真の考えは一か八かの確率の低い作戦だ。クロエ自身が人攫いに遭遇しないとも限らない。そもそも孤高のエルフを助けてくれる種族はドワーフか……竜神族、だがドワーフでは戦力としてエルフと大差ない。竜神族は最強の戦士が大勢いるが1月で往復できる地域に住んでいない。


だが長の命令は絶対だ。


クロエは長達の陽動の討伐の隙を見て、どうやら包囲網を突破して丸1日走り続けた。


そして出会ったのが別の人攫いという訳である。その上。


「当たり前でしょう。わたくしは魔物ではございません。……魔族、ですから」


途中で突然馬車を襲った褐色の肌に頭に二本の角を持つ魔物とも亜人とも思えない謎の男。


その正体は魔族だった。


『せめて戦士らしく戦って死にたい』


だが、足には力が入らずガタガタと震えてもう限界だった。


このまま抗うこともなくこの魔族に殺されるのか?


はんば諦めたかけた時それは起きた。


「その汚い手をさっさと離してやれよ」


「な……に?」


信じられないことに魔族に対抗する男が!


「お前……魔族だな?」


「なんと一目でわたくしの正体を……お前、何者?」


「俺はレオ、ただの人間だ」


「だめです! 逃げてください! こんな化け物になんて……勝てない!」


このままじゃ、この人まで殺される!


「ふふふ、唯の人間でしょうね。人間であるが限り、わたくし達に勝つ事はできません。趣向を変えて、この女の四肢を切断してあげましょうか? それとも、ふふ、それとも……あ? え? わた、ぐし、へぐッ!」


ズガーンという打撃音と共に……魔族の首は草原を転げていた。


「え?」


唐突に魔族の首が消失した。


そして何を話していたのかわからない位混乱して、気がつくと気を失いそうになっていた。


「……あ」




気がつくと男の人に抱き寄せられて。


「大丈夫か?」


「……あ。すいません。緊張の糸が切れたら……え? 僕、戦士なのに……お姫様抱っこ?」


「ん?」


「お、お願いだ。た、助けて。みんなを。里のみんなを!」


また何を言ったかわからなくなる、だけど。


「まあ、そういう訳だからクロエさんの里は俺に任せろ」


人族の男が僕に声をかけた。


『クロエさんの里は俺に任せろ。俺が何とかする』


それを聞いた途端、クロエの子宮の下の方が疼く。


真っ直ぐに見つめる超絶イケメン(クロエにはそう見えている)の男性に声をかけられて。


あん!


クロエの子宮の下の方がじゅんとしてしまった。


再び尊いイケメンを直視できずに気を失いそうになる。


「大丈夫か?」


そう言ってクロエを抱きかかえる。


お姫様抱っこで。


「ひゃ、ぼ、僕、里の戦士なのに、こ、こんな!」


そして更に大事なところがびしょびしょになってしまう。


クロエは恥ずかしさのあまりに顔を真っ赤にする。


そして東の森のダンジョンにスケルトンを討伐するために進むレオ。


「(かっこいい)」


クロエの心配をよそに気遣ってくれるレオ。


既にクロエは戦士である事を忘れて乙女になっていた。


「レ、レオ様?」


「安心しろ。クロエ」


イケメンにクロエの頭に手をやられると、やはりクロエは顔を赤くする。


もう、パンツがびしょびしょだからだ。


そして猫耳族が囚われている空間で声をかけられる。


「行くぞ、クロエ!」


「はい。お願いします」


はい。私、もう何度もいってます。


こんな時にかっこいいレオ様を見て何度もいってしまっている自分に羞恥する。


もう挿れて!


クロエは密かにそう思うのであった。

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