第10話レオ、魔族をブチ殺す
騎士は焦っていた。彼はS級の騎士。冒険者と同様Fから始まり、E、D、C、B、A、Sとランク分けされる騎士では最高峰の騎士だった。これ以上のSS、SSS級もあるが名誉職で実際にはS級が最高峰なのだ。そして彼の同僚もまたS級。そのS級の騎士を大剣の一振りで、それも直接剣で切った訳でなく、剣から生じた衝撃波だけで胴体を真っ二つ。
勝てる訳がない、一人の人間では……倒す為には大勢の仲間と共闘する必要がある、ならば。
騎士は一気に逃げ出した。恥を忍んで逃げ出した。
「あらあら、騎士ともあろうものが、本当に人間はわたくしを愉快にさせてくれる生き物」
「必ず仲間を呼んで、お前を倒してや_ゲフッ!?」
騎士は突然激しい衝撃と共に目に見える景色が一転したことに驚いた。大男である彼がこんなに細やかに草原を転げ回ることができる筈がない。
だが、それが何故なのかすぐに知ることになる。自身の首を落とされた胴体を見て。自身の胴体を眺めることができる地点で止まった首は、ただ空虚な空を眺めていた。
……プシャーーーー。
転がった首が止まったと同時に噴き出す血潮、そして胴体が倒れる。
ズシャ
「ふふふ、距離があれば衝撃波も届かないとでも思ったのでしょうかね? わたくしにとっては大して変わらない距離ですのに……しかし、今回はハズレですね。せっかく魔力の高い女を捕らえることができるかと思えば……エルフ! 亜人ですって? まだ亜人の改造は試験が始まったばかりにも関わらず。全くわたくしに無駄骨を折らせるとは!」
「ひっ!」
騎士から自身に目を向けられたエルフの少女の顔色は恐怖に染まっていた。
「安心なさい。無価値なあなたにもわたくしの食糧となる価値があります。そうそう、しばらくは大切に扱ってあげましょう。あなた達亜人や人間は少し優しくしてあげると信じちゃって、いざ食べる時に「そんな!」とか「どうして?」とか聞いてくるの。そんなのわたくし達魔族にとって人族は等しく食糧なんですから、食べるに決まってるでしょう?」
「……あ、ああ、た、助け……誰か?」
「だから安心なさい。すぐには食べません。しばらく飼って安心したところを殺してあげます。だから安心してわたくしと来なさい。エルフの若い女は中々美味いですからね」
魔族はずんずんとエルフに近づき、手を捻り上げる。
「い、痛い、止めてくださいね」
「ふふ、最初は恐怖を覚えるけど、あなた達はしばらく大切に扱われると情がわたくしに移るの。そう信じたいのでしょう。でも、いざ殺す時に助けて欲しいって本気で頼んで来る、それを嫌って断った時の絶望に染まる顔を見るのがわたくしは一番好きなんです」
魔族が乱暴に華奢なエルフの手を引っ張って行こうとした時。
「その汚い手をさっさと離してやれよ」
「な……に?」
驚いた顔の魔族、魔族が顔を後ろに向けると、そこにはレオがいた。
☆☆☆
俺が現場に到着すると騎士が一人見たこともない魔物に倒されていた。
間に合わなかったか? いや、まだ生存者がいる。
俺は隠蔽の符を切って魔物に存在を気取られないように近づいた。しかし。
「い、痛い、止めてくださいね」
魔物はエルフと思しき亜人の子の手を捻りあげ、何か言葉を吐いている。俺はこの魔物の正体に心当たりがあった。世界図書館で読んだ魔族の記録。1000年前に封印された魔族。だが、封印は1000年しか持たない。世界図書館の記録と人間界に伝わる聖書の記録からすると魔族の封印は解かれたのかもしれない。何よりこの禍々しすぎる瘴気と喋る魔物としか思えない風貌。
魔族は2本の角、褐色の肌に黒い羽根を持ち、聖書の魔族の挿絵にそっくりだった。
「お前……魔族だな?」
「なんと一目でわたくしの正体を……貴様、何者?」
「俺はレオ、ただの人間だ」
「だめです! 逃げてくださいね! こんな化け物になんて……勝てないね!」
少女は必死に叫ぶ。助けに来た者の身を案じている。そんな子を見殺しにできないよな?
俺は魔族を観察しながら符を複数切った。『身体強化、筋肉強化、剣術強化、体力強化、敏捷強化、防御強化、魔力強化、耐魔強化』そして、世界図書館のあったダンジョンの最下層で得たスキルチケットで取った__『闘気強化(大)』。闘気強化はスキルによる強化、しかも魔法や通常のスキルの身体強化が魔素で行うものに対して闘気による強化。魔法の系統の魔素とは異なり、威力も大幅に大きい。
それを俺は使った。
「ふふふ、唯の人間でしょうね。人間であるが限り、わたくし達に勝つ事はできません。趣向を変えて、この女の四肢を切断してあげましょうか? それとも、ふふ、それとも……あ? え? わた、ぐし、へぐッ!」
ズガーンという打撃音と共に……魔族の首は草原を転げていた。
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