第9話レオ、魔族と遭遇する
「ねえ、レオ、平民になったら何したい?」
「何って急に言われても……」
俺とアリスは東の森のダンジョンに向かっていた。スケルトンを狩るためだ。
「そんな困った顔しないでよ。レオの未来像は知っておきたいぞ」
「……アリス」
俺はしばし考え込むと。
「幼馴染のシェニーに会いに行きたいな」
「はあ?」
何故かアリスは怒ったような顔をする。シェニーというのは俺がまだ平民だった頃の幼馴染。よく一緒に遊んだな。レオのお嫁さんになるとか言われたこともあったな。
平民の頃のいい思い出だ。平民に戻れたら彼女に会いたい。彼女は俺がハズレスキルだと知っても俺を蔑んだりはしなかった。俺が奴隷商に引き渡される時も泣いて、自分の部屋から俺の方を見ていた。
「もう、レオってば乙女心がわかんないの?」
「ちょ、ちょっと待って! 前方で誰かが襲われる!」
「え?」
「俺、常時探知の符術使ってるんだ。だから周囲10km位の様子がわかる」
「じゃ! 助けに行かなきゃ!」
「ああ」
俺とアリスは前方で強い魔物の瘴気と人の命の火が消える様を探知して救援に向かった。
☆☆☆
立ち込める炎、焼け焦げた死体と散乱した血。見ると馬車は破壊され、ただの瓦礫になっていた。何人かの冒険者が血まみれで倒れており、命を落としたのは間違いない。
馬車が魔物に奇襲を受けたものの、まだ生存者はいた。騎士が三人と、その後ろで若いエルフの女の子が恐怖ですくんでいる。
「確か、最近この付近で旅人や商人の馬車を襲って人を攫って食う魔物がいるんだよな」
「ああ、この魔物は間違いなく王都から指名手配されているS級の魔物だ」
「こんなところで人狩りの魔物に出会えるとは俺達は運がいいな」
「幸運? 不運の間違いではないのですか?」
「な!」
「喋った!」
喋ることができる魔物はいない。それが常識だった。だが、この魔物は?
「魔物が喋るなんて聞いたことがねえ!」
「ああ、こいつ、普通じゃないぜ」
「当たり前でしょう。わたくしは魔物ではございません。……魔族、ですから」
「な……に?」
魔族。太古の神話にしか登場しない架空の生き物……の筈だった。
「神話の通り、人を滅ぼすために蘇ったのか?」
「ならば滅ぼすのみ、我ら王国騎士団の力、見せつけてやるぞ!」
「くくくッ。たかが人間風情に……わたくしが倒せると? それにずいぶんと格好の良いことを言っていますが……あなた達、そのエルフの娘を奴隷商に売ったのでしょう」
「五月蝿い。エルフなど亜人。奴隷として売って何が悪い! たまたま公爵様お抱えの商人の護衛を承っていた時にエルフがノコノコとやって来たんだ」
「それではわたくしとやっていることが同じでしょう? わたくしも人狩りをしているだけですので、くくく」
「同じにするな! エルフ風情と俺達人間の命では重みが違うだろう?」
「ほう、だからそのエルフの娘と一緒にいた男のエルフは殺したんですね? いつから人間は亜人をそんなに蔑むようになったのやら」
「男のエルフなど使い道がないだろ!」
「そうだ。エルフの男は生意気で反抗的で人に仕えない、だから!」
「だからと言って殺してしまうなんて……わたくしと何処が違うんでしょうかね?」
騎士達は蔑まれているエルフの男を殺し、残りの女のエルフを商人に売った。
確かに人狩りの魔族とやっていることは同じだ。
「魔族のくせに亜人如きに憐れみを向けるのか? 馬鹿なやつめ、お前達のような人間とは違う劣った種族が人間と同じ扱いを受ける訳がないだろう。それに馬鹿正直に魔族だなどと白状をするとはな。伝説は知っている。だから我ら騎士団は伝説の魔族復活の際に戦うためにいる……わかるか? お前は今、俺達騎士団に滅ぼされるんだ!」
「ああ、そういえば先日襲った馬車の騎士団の連中も同じようなことを言ってましたね、しかし」
斬!
魔族が剣を一振り払った。騎士の一人の頬に激しい風が襲った。素早い剣戟から発生したものに間違いない。魔族の剣は大剣で人間の力であんなに素早く振れる筈がない。
「あ、あんな大剣をあんなスピード操るとはな。皆、気をつけろ。まともに食らったら、ただでは済まんぞ、え?」
騎士は気を取られた。何故なら横にいた同僚の方からおかしな音が聞こえたからだ。
横の騎士二人に目を移すとそこにあったのは上半身がない、下半身が二つのみだった。
……プシャーーーー。
彼の聞いたおかしな音は激しく噴き出す血の音だった。
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