第5話支援職は王女様とお茶をする

「酷いぞレオ! いきなり殴るなんて! 私は女の子なんだぞ!」


「だって剣を教えてる時も時々妄想癖を発症して……そういう時は殴っていいって」


言ったもん、確かに言った。それに都度故障を治さないと話が進まないし。


「確かに言ったけど、もうちょっと手加減してくれてもいいと思うぞ」


アリスの頭には美少女らしからぬデッカイたんこぶができていた。


「まあ、そんなことよりこれからのことを話すぞ」


アリスは隣国の王女だ。何故こんなところにいるのかとか色々聞きたい。


☆☆☆


「じゃ、アリスは帝都への旅をしてるんだね?」


「そうなの。途中まで騎士の護衛がいたんだけど全滅しちゃってね、困ってたんだぞ」


「冒険者を雇うとかすればいいんじゃ?」


「それが……断られて……それに知ってるでしょ。私もハズレスキルで……」


「未来視スキルの呪い……か」


アリスは俺と同じハズレスキルだった。アリスと俺は昨年まで師弟関係だったけど、実は王女様と知って驚いた。でも、王女であるアリスにそんな自由が許されるのはハズレスキルが故だ。


彼女には王位継承権がない。ハズレスキルの王族は王になれないし、王女である彼女も政略結婚の駒としての価値はない。俺達の様に奴隷にされたりはしないけど、彼女も俺と同様国王や女王、つまり両親から疎まれていた。


王女だとわかっても親しくしていられるのは境遇が同じだからだと思う。


「私……普段は未来視で剣には有利だけど……命に危険が迫っている様な時に……言葉が自動的に古代語になるペナルティがあるの」


「そっか」


スキルの中でも未来視は難しいスキルだ。何故なら一見絶大な威力を持つように思えるが、その威力が故かペナルティがたいていある。


未来を知った瞬間戦闘力を失ったり、仲間の顔を忘れてしまったりとか。


ちなみに未来視で見た未来は変えることができる。故に未来視は本来絶大な威力を持つスキルだと思う。世間ではハズレスキル扱いだが。


「命に関わるようなやつは見たいと思って見るものじゃないから、突然なの。だから突然言葉が古代語になってしまって、せっかくの未来視が台無し」


「そっか。でも俺なら古代語わかるから大丈夫だ」


「うん、それでレオとパーティを組みたいぞ! 今まで冒険者から味方殺しの王女様って不名誉な二つ名で呼ばれてたぞ」


そっか、アリスはかなり苦労したんだな。


「はは、この街に来るまで冒険者パーティーを3回も追放されたぞ」


「アリスも追放されたの?」


「うん。オーバーランクの魔物に出会った時とか……私が突然古代語になってね……連携が取れなくなって……パーティが危険に晒されて……それで追放。カナリアの方がマシだってね」


そっか、アリスもパーティを追放されたりしたのか……。


あれ、でもなんでアリスは冒険者なんてしてるんだ?


「んん? 私がなんで冒険者やってるか? でしょ? 説明するわ」


アリスはここ最近の境遇を説明してくれた。アリスは王国から帝国へある情報を伝えるために密使として派遣されていた。最初は屈強な騎士団と行動を共にしていたが、途中で強力な謎の魔物と遭遇して騎士団は壊滅。アリスだけが逃されて生きながらえたものの路銀もなく、身分を証明できるものも奪われて、一人帝都を目指していた。


帝都には知り合いもいるから身分は証明できる。


「……で、冒険者としてお金を集めながら帝都を目指していたの」


「まあ、ここからだとアリスの国に戻るより帝都を目指した方が早いからな」


「それに私だって役に立つとお父様達に認めてもらいたい……から」


「……アリス」


気持ちはわかる。俺も両親に見放された時、悔しかった。認められないことが辛かった。


「まあ、辛気臭い話はこれ位で、レオのお給料とか決めるぞ」


「お給料? お給料もらえるの?」


「当たり前じゃない。大陸で統一された法律で決まってるぞ」


驚いた。俺は奴隷に給料が支払われるなんて知らなかった。アリスの説明によるとどうも法律で決まっているらしい。どうやら勇者アーサーに給料を搾取されていたらしい。王都で師匠に剣術を教えてもらっていた頃は奴隷商の所有物だった。しかし勇者アーサーと隷属の契約を結んだ時に本当の奴隷となったので、その時に給料の支払い義務がアーサーに発生していたらしい。


給料は普通の人を雇うよりかなり安いが規定の価格を支払う。主人は奴隷の働きに応じて給料を上げることもできる。


この制度は奴隷のやる気を向上させるためと過去の奴隷の反乱に際して作られて救済措置らしい。奴隷にも未来は必要だ。身請けをすれば自分の力で平民に戻れる。身請け料は購入額の3倍にも及び、奴隷商と主人の両方で分配される。主人も奴隷商も損はしないそうだ。


「でもね。無駄遣いしないで貯めてね。それで奴隷商に身請け料を支払って平民になるんだぞ!」


「アリス!」


俺は最高のご主人様を得た。俺みたいな奴隷にこんなに良くしてくれて……。


俺はついこの素敵な王女様に見とれてしまった。だけどアリスと目線がガッツリあうと、アリスは何故かアワアワアワし始める。


「そ!……そんなに見つめちゃ嫌! そんなに私を見ないで! もうレオったら、もう、そ、そ、そんな、今日は朝まで寝かさないぞ! だなんて、私、は、恥ずかしいぞ!」


ゴン。


俺は有無を言わせず殴った。


アリスのたんこぶがお正月のお餅みたいに二重になったけど、話を続ける。


どうもアリスは発症した時に俺に殴られても文句を言わないことにしたようだ。


それにしてもアリスの脳内で俺との関係は何処進んでいるんだ?


「まあ、それでね。レオに聞きたいんだけど、奴隷から自由になれたらどうしたい?」


「自由になれたら……か?」


俺は思いを巡らせた。自由になれたら……しばらく考えてある人物の顔を思い出した。


「子供の頃に良く遊んだシェニーに会いたい。お嫁さんにするって約束したんだ、俺」


「う、浮気ね! 浮気宣言ね! 私という妻がいながら違う女の人とエッチなことする気ね! え? そうじゃなくて二人同時にドンブリ? そ、そんなはしたないこと! でも、私頑張るぞ!」


「頑張るな!」


ゴン。


アリスのたんこぶは三重になった。 

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