第4話支援職は王女様に拾われる。もちろんしゅきと言われるが無自覚(お約束)

俺は今度こそまともな主人の元で働きたいと考えた。勇者パーティでなくとも、まともな人と出会えれば、中級や上級の符術を広めて符術をハズレスキルでなくす事ができる。


いや、世界図書館で読んだことが本当なら、この世にハズレスキルなんてない。


だが、邪な主人では俺の力は利用だけされて、世間に広める事を禁じるだろう。


そんな時、俺に声をかける者がいた。


「……レオ、よね?」


涼やかな声が響く。俺には覚えがあった。


「まさか? ア、アリス? いや、アリス様?」


「アリス様なんてそんな他人行儀で呼ばないでよ。あの頃私の事呼び捨てにしてたぞ」


「あ、あれはアリス様が王女様だなんて知らなかったから!」


「ふふっ♪」


声の主はどうやら昔、俺が剣を教えた隣国の王女様、アリスの様だった。彼女は身分を隠して俺に剣の指南を願った。師匠からも教えてやれと言われたので、てっきり俺と同じ奴隷だと思っていた。格好だって、とても王女様とは思えないものだったんだ。


「レオ、ありがとう。あなたのおかげで命拾いしたわ。今度は私があなたを助ける番だぞ」


「命拾い?」


一体何の事だ?


「ダンジョンの25層でアルラウネに接敵したけど、咄嗟に身を隠してたの。レオ君が倒してくれなかったら、命はなかったと思うぞ」


「あの時の短剣はもしかして?」


「私よ。せめてもの援護にと思ったけど、とても私では倒せないから悔しかったけど……でもレオは単独でアルラウネを倒して! でもその後もまたアルラウネに接敵してたから、もう駄目なんだって……そう思ってたらレオが生還して勇者パーティから追放されるってギルドで噂になってて」


そうか、あの時の短剣はアリスだったのか? それに、先にアリスと接敵してたのか?


「待っててね。今あなたの身柄を譲ってもらうわ」


「あ、ありがとうございます」


アリス……俺は素敵なご主人様に仕える事ができそうだ。アリスは隣国の王女様だが人となりは良く知っている。お転婆だけど、いい人だ。


俺は程なくして牢獄の竪穴から出された。そして隷属の魔法を王女アリスへと書き換えられた。


「ア、アリス様、ありがとうございます。御恩は一生忘れません」


「わ、私、別にレオの勘違いなんだからね! しゅきなんて言ってないぞ! 別にこの隙に乗じてお付き合いしてもらって恋人なるとか、お似合いの2人になるとか、未来のお嫁さんになるとか! 結婚式場はもう予約した方がいいとか! 思っている訳じゃないぞ!」


「ええッ!」


しばらく見ないうちにアリスは立派なチョロインに成長していた。良く見ると子供の頃から綺麗な女の子だと思っていたけど更に綺麗になっていた。輝く銀髪に印象的な赤い目。


だけど一国の王女様とお付き合いとか、け、結婚とか……俺、奴隷だよな?


「あの、アリス様?」


「違うんだから、違うんだぞ! 妄想じゃないぞ! 妄想じゃないもん」


「テイッ!」


俺はつい昔みたいにアリスの頭にチョップした。アリスは子供の頃から妄想癖があって、良く故障するけどこうすると治る。


「えへへ。レオにチョップされたぁ♪」


「アリス様、とにかく真面目にお礼させてください」


「もう、そのアリス様って止めて。アリスって呼ぶんだぞ。これ、命令だぞ」


「め、命令なら、その……そのアリス……」


「あわわわわっ!ホント? 本当に呼び捨てにされたぞ! もう、レオったら私達お似合い過ぎるだなんて! もう、まるで夫婦みたいだなんて! 18になったら結婚しようだなんて。恥ずかしい事言わないでよ!」


いつ言った? そんな事……アリスは壊っぱなしだ。どうもアリスは妄想癖が悪化したらしい。俺との都合がいい様に脳内で少々現実の捏造が行われる機能を有している様だ。どう考えても脳神経外科への受診を勧めるべきだろう。せっかくの美人が台無しだ。ていうか、アリスってかなり残念な女の子だよな?


アリスは更に身体をねじらせてイヤンイヤンのポーズを取りだした。


「ええ!? 私の事! 運命の人って、あわわわわわわっわわ!? そんな急に、そ、そんなに急に駄目よ! イケないわ。未だ早いわ!? ちょっと待って。レオ! 落ち着いて!」


『いや、落ち着くべきはアリスの方だろ? もしかしてこの子、頭のねじどっかとんでる? やはり、救急馬車を呼ぶべきだろうか? しかし、どこの病院へ連れて行くべきだろうか? 妄想科ってあるのか?』


「私達、そんなにお似合いかしら? ねぇ? どうしよう? えへへへ♪」


『いや、だから誰が言ったの? 誰もそんな事言ってないよな? これは緊急修理が必要だ。スマホやパソコンなら電源のON/OFFでたいてい治るけど、アリスには電源スイッチ無いよな? いっそ昔のブラウン菅のTVみたいに殴るか?』


そんな事を考えていると、俺は気がついた。こんな頭のねじが飛んだ子とじゃまともな主従関係なんて結べないよな? これ、絶対矯正した方がいいよな?


俺は彼女に向かって、優しくこう言った。


「アリス、上を向いて、目を瞑ってくれるかな?」


「えっ!? レオ! 駄目だぞ。早すぎだぞ。え? も、もうなの? 順序が、ち、ち、ううん、いやわかったぞ。お願い♪」


何故か頬を赤らめて、アリスは上を向いて目を瞑った。俺はその隙に乗じておもくそ頭を殴った。

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