第3話支援職は世界図書館のおかげで微妙なハズレスキルの組み合わせが最強なことに気が付きました。

そこは世界図書館。こんなの聞いたことがない。幸い魔物が入って来る様子はない。


王都の王宮の図書館に比べる訳にもいかないがかなりの量の蔵書があるようだ。


『世界図書館の案内』


俺は入り口付近の古代語で書かれていた案内を読んだ。


この図書館の蔵書は持ち出し禁止.


この図書館では時間は止まる。


一度誰かが入り、出ると100年間入り口は閉じられる。


俺はスキル『翻訳』のおかげで初めての文字や言葉を簡単に理解することができる。それに古代語習得は符術には必須のことだったので元々多少古代語は読める。


俺は適当に1冊の本を手に取った。


「!!!!」


思わず声にならない声が出る。表紙には古代語で上級符術魔法指南書とあった。そしてそこには幻の上級魔法のスペルが書かれていた。


符術とは通常の魔法と違い、紙に符に書かれた魔法を願い、術式を展開する。故に自身の魔力やMPを消費しない。普通の魔法使いは魔素に直接干渉して無から何かを生み出したり、理を曲げる。


一見便利な符術が何故ハズレスキルなのか? それは符術が低レベルの初級までしかないからだ。他の魔法使いは初級から中級、上級、それに宮廷魔法使いだけが習得を許される神級魔法までがある。威力はもちろん中、上、神級と順に強くなる。


それに引き換え初級までしかない符術魔法。他の魔法は大昔から伝わっているが、符術はいつの頃からか途絶えた。その為、同時にたくさんの術式が展開できる上、使う時にMPを消費しない便利さを持つにも関わらず符術はハズレスキルとされた。


しかし、上級の符術が本当に存在するなら?


俺はゴクリと唾を飲み込むと貪るように本を読んでいた。


俺はたくさんの符術の本を読み漁り、中級、上級、神級そして創世級魔法までもを覚えた。符は一定の魔力と符を作る時に消費する僅かなMPがあれば簡単に作ることができる。いや、戦う前に符を作っておくことができるので、呪文の詠唱が要らず、同時に複数の魔法を展開できる点が有利だ。


普通に魔法詠唱していたら、発動に時間を要し、例え呪文破棄などができる域に到達しても複数の術式を同時展開することはほぼ不可能な話だ。だが、符術はそれを簡単にやってのける。


それだけではなかった。俺は符術の基礎と他のスキルの本を読み、符術の有効的な使用方法がわかった。


符術の弱点。それはせっかくの符も持ち運べる量に限りがあること。必要な時に適切な符を切る必要があること。俺達符術士は服にたくさんのポケットを作り、符を種類別に分けていつも直ぐに出せるようにしていた。しかし……『収納』のスキルを持つものは最強の符術士となれる、と。


俺も今まで予備の符をスキル『収納』に保管していたが、あくまで予備を入れていただけだ。この本を読むまで気がつかなかったが、収納のスキルはイメージしたものを目の前に出す事ができる。今まで掌に魔法陣が現れるから掌から出していたが、収納魔法は別に何処へでも好きな物を出せる。つまり、いつでも収納に入っている符を発動可能なのだ。わざわざポケットから取り出す必要はない。その上、多量の符を収納可能で、他の魔法使いの様にMPを気にする事なく魔法が使える。


更に驚いたのが……『符術士は最強の剣士となれる』。


俺達奴隷の符術士にとって剣は必須の物だ。何故なら他の後衛職の魔法使い達を守る肉壁となるためだ。奴隷は命を捨ててでも他の魔法使いを守らなければならない。


だが、あくまで護衛に過ぎない筈の符術士が……剣聖や勇者を凌ぐ剣士となれる、と。


符術は基本支援職だ。たくさんの支援魔法がある。それは自身へも適応可能だ。身体強化、敏捷強化、体力強化、筋力強化、物理防御強化、魔法防御強化。それらを同時に展開すれば初級でもかなりの支援ができる。それが上級ともなれば?


更に剣に魔法付与も可能だ。自身に剣の才能があれば最強の剣士となる事も可能だ。


俺は奴隷商に売られた時に宮廷の師匠に剣を教わった。師匠は奴隷だったが、他の奴隷と違って、剣聖の称号を得ていた。特別な人なんだろう。俺は師匠の弟子となり、符術だけでなく、剣も学んだ。おかげで努力の結果得られる後天的なスキル、剣術(小)を得た。剣聖や勇者などは無条件で剣術(大)を習得できるから、その差は歴然だが、符術を使えばその差を埋める事ができる。


この世界図書館には魔法の他、ありとあらゆる知識が詰まっていた。俺はそれらを読み漁った。


そして一体どれ位の時間が経ったろうか? とんでもない量の本を読んだからかなりの時間が過ぎている筈だが、腹は減らないし、水さえ飲んでいないのに平気だ。


時間が経過しないのは本当なのだろう。


俺はこの図書館で覚えた幻の符術、錬金符術で白紙の符を大量に作り、符を書いた。魔力に制限があるから上級魔法までしか作れなかったが、100枚以上の符を作った。


そして、いよいよ世界図書館を出る事にした。俺はダンジョンの下層にいる。外へ出ればたちまち強力な魔物に出会う。もし、この図書館で知った符が発動しなければ俺は死ぬしかない。


だが、俺に選択肢はなかった。新たな符を収納魔法に入れると俺は図書館を出た。


図書館を出ると目の前にロイヤルアルラウネがいた。時間は止まったままだったのだ、当然か。


「符術、魔力強化! 紅蓮!」


俺は作ったばかりの中級攻撃符術魔法を使った。たちまち火に包まれるアルラウネ。たった1発の魔法で魔物は消滅した。


俺の使った魔法は魔力を上げる中級魔法と単体攻撃に特化した火の符術だ。攻撃魔法には単体攻撃魔法と広範囲魔法がある。単体攻撃魔法は魔物1体にしか攻撃できないが、威力は大きいし、符を作る時のMP消費も少ない。


その上、俺は魔力強化の魔法も使った。これを使えば中級の魔法が神級魔法に相当する威力に変わる。


そう、俺は最強の符術士になった。いや最強の魔法使いの可能性すらある。古代語の意味がわかる俺は符術の威力が昔から強かった。そもそも意味がわからないと符が書けない。


俺のハズレスキル『符術』、『翻訳』、『収納』、一つ一つはハズレスキルだったが、組み合わせたらとんでもないことになった。


俺は迷わずダンジョンの最下層を目指した。

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