三 の 二

「万知也、一緒に……、」


 云いかけ、転校生の存在に気付いて目を見張る。「その制服、帝都の……、」


 転校生は自分の胸元に軽く手を当てて微笑んだ。


「うん、そうだよ。良く知ってるね」


 美蘭乃は転校生を睨みつけた。


星辰せいしん院でしょ。それくらい常識だもの」


 転校生は美蘭乃の制服を見、小くびを傾げた。


「あなたも転校生? 何処どこから来たの?」


 美蘭乃の頬が赤らんだ。悔しそうに唇を引き結ぶと、足早に去っていく。


「布目君の知り合い?」


 気にもかけないようすで、転校生が万知也にたずねる。


「はとこ」


「そっかあ。可愛い子だね」


 特に含みの無さそうな云いだった。万知也は返事に困って微苦笑した。美蘭乃がこの台詞せりふを聞いたらどう反応するのだろうと、思った。


 転校生は程良い距離で万知也の隣りに並んで歩いた。


「私もみんなみたいに、布目君のこと万知也君って呼んでも良い?」


「ああ、良いよ」


「本当? 嬉しい。早くみんなと仲良くなりたいから」


 女子はこぞって彼女に話しかけにいき、男子も彼女のことが気になるようだった。完全に打ち解けるまで、そう時間はかかるまい。


 彼女も「まつり」と下の名前で呼んでも良いと云ったが、万知也は「片倉」と名字でしか呼べそうになかった。


 人懐っこくはあるが、片倉まつりはおしゃべりと云う訳ではないようだった。あれやこれやと質問するのもどうだろうと、万知也は差し控えた。さして会話はなくても、不思議と気詰まりではなかった。彼女の醸し出す雰囲気が、軽くてやわらかいからだろう。


 若竹の小母おばさんが、家の前で花の世話をしていた。


「こんにちは」


 万知也に続いてまつりも小母さんに挨拶をした。


「お帰りなさい、万知也君。同級生?」


 小母さんはまつりを見て訊ねる。


「昨日来たばかりの、転校生」


「そうなの。じゃあ、いろいろ教えてあげないとね。そうだ、万知也君。良かったらお寿司持っていって」


「ありがとうございます」


 ビニール袋を持たされ、万知也は礼を云って立ち去った。


「なあに?」


 まつりがビニール袋に興味を示す。


「ああ、これ。笹寿司。ここの郷土料理なんだ」


「郷土料理? わあ、どんなお寿司なんだろう」


「半分持っていくか?」


 うん、と、まつりは頷いた。「嬉しいな。どうもありがとう」


 遠慮しないところが朗らかで気持ちが良かった。コンビニエンスストアの前にさしかかる。


「ちょっと待ってて」


 万知也はコンビニに入ると、急いでプリンを買った。外で待たせていたまつりにプリンのカップを持たせ、空になった袋に笹寿司を移し入れる。


「はい」


 その袋とプリンを交換し、自分の寿司の袋にプリンを入れた。まつりは目を大きくする。


「この為に、わざわざ?」


「剥き出しで寿司を持って帰る訳にはいかないだろ」


 ふふっ、と、まつりは肩を竦めて笑った。


「有難う。やさしいんだね、万知也君」


「どういたしまして」


 万知也としては当然のことをしただけだったので、そんな風に褒められると面映ゆい。

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