三幕その八:万年筆の使い方
万年筆の使い方?
そんなもん、「書く」以外に何があるってんだ。
まかり間違っても四次元やら五次元に干渉するだなんて、そんな大層SFかファンタジーに寄った──あるいは酔った──使い方をされるなんて万年筆君本人だって心外だろう。
だが、それで良いのだ。
そもそも。俺は誰だ。作家の遊葉だ。文字を書く以外に大した熱意も長所も無い男だ。
俺は思うがままに、されど誰かに導かれるようにして、地面にナニカを書き殴った。
俺の仕事はここまでだ。
もう一人のツヅキ────いや、未来のファンへの敬意を以て山覚さんとでも呼んでやるか。山覚さんはこう言っていたよな。人類を超越した知能と魔法少女の力が必要だと。
こんな偶然があるか?
いや、必然だったのかもしれない。
だからここには、奇如月さんと鶴見先輩が居る。
いや何、神様ってのを俺は一度たりとも信じた
「解析完了。兵装・展開」
奇如月さんが、その古代文明の文字か、はたまた寝惚けたイカれ作家の走り書きのような文字列に手をかざすと、インク文字が宙に浮かび上がった。かと思えばたちまちそれらは一所に集合し、子供向け玩具のような外見の杖へと姿を変えた。
「ふむふむ……確かに魔力順路は正常に接続できるみたいだね、それでいてパスロックも無し、と。オッケー、多分使えるよ。やっちゃって良いんだよね?」
鶴見先輩が問うのは俺に対してであった。俺は迷わず、
「お願いします」
鶴見先輩の身体が仄かに光を帯びたかと思えば、その光はゆっくりと手元の杖に収束してゆく。やがて杖はLEDライトなんざ比にならない程の自己発光を為すと、その光を一気に空へ放出した。
杖を始点に、空へと光の柱が建った。
俺たちはさながら、火を初めて見るしがない猿である。その光の柱が真に世界を救うという確信も持てず、されどそれを信仰する以外に道は無かった。
空に突き刺さる光の柱を中心にして、紫色の空はグラデーションのようにじんわりと色を変えていった。紫から赤へ、橙、黄、緑、ようやく青へ。
「噫、現実だ」
青空を見たのが久々のように思えた。最早空というのは元から紫色をしていたかのような不思議な感覚を覚えた。ファンタジーの世界に慣れきった異世界の勇者が俺たちの知る現実に転移してしまった時、こういう感覚を覚えるのかもしれないな。……なるほど、逆異世界転移か。
空の色が完全に青になりきると、今度は【Ark―E(vil)】達が一斉に吼え挙げた。それを人間の言葉に訳すなら「死にたくない」とか「今夜は帰りたくない気分」とかそういう類の意味だったのだろうか。一斉に、空に光の柱が突き刺さっている箇所へと吸い込まれ始めたのだ。あれほど俺たちを始めとした現実を破壊してきた奴らが、こうも容易く撃退されゆく姿を見せられると、安堵半分、己の無力さに凹みすらする気持ちがもう半分を占めていた。なんと不謹慎な感情か。
最後の一匹──一頭ではない、敢えて一匹と揶揄させてくれ──が光の柱の先っぽに呑み込まれると、鶴見先輩は満足したように杖を下ろした。そのモーションに合わせて光の柱は消滅する。
「完了だ」
その一言を聞いた俺はどっと疲れが押し寄せてき、
「映画、作らなきゃな」
ぽっと出の本心をうっかり零し、そのまま気を失った。
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